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「お客さまがいっぱいですね」
「眠っていたお皿たちを叩き起こしたから、当分はお仕事に困らないわよ」

 お客さまから受け取ったお皿やティーカップなどに、間違えないように目印をつけていきます。

「どうしてかしら。急にこのティーカップでお茶を飲みたくなってしまったのよ。ひびが入ってしまいこんでいたけれど、大丈夫かしら?」
「このお皿はね、ひいばあちゃんが子どもの頃からあったのさ。欠けて使わなくなっていたが、またこの皿でアップルパイを食べたくなってねえ」

 フェリシアは気合いを入れて呼びかけてくれたようです。彼女の特技は、忘れられてしまった古い陶磁器を目覚めさせること。

 お直し屋である私にとって、最高の相棒とも言えるでしょう。

 黙々と作業をこなせば、もうお昼過ぎ。すると、フェリシアが嬉しそうに跳び跳ねました。

「ブリジット、ほら見て! 彼よ」
「わかってますよ。何であんなところにいるんですかね?」
「一応、付きまといにならない範囲で待ち伏せしているんじゃないの?」
「すでに付きまといストーカーじゃないですか!」

 窓の外には、先日出会った彼の姿がありました。往来の邪魔にならないように木陰に立っているのが逆に怪しさ満点です。

 そしてこの辺りのリスたちは、彼を絶好の遊び場として認識してしまったようです。背中を登られたり、服の内側に入り込まれたり。

 詐欺師は人当たりの良さが大事ですからやはり我慢しているのでしょうか。

「チャンス到来ね。いってらっしゃい」
「ちょっと!」

 小鳥のどこにそんな力があるのか玄関まで引っ張られ、そのまま外に放り出されてしまいました。

「こんにちは。また君に会えるなんて嬉しいな」
「いやいや、どう考えても待ち伏せしていましたよね?」

 私が突っ込めば、彼は困ったように頬をかきました。そんな彼の手には、大切そうに抱かれた箱。もしや、彼もお客さまなのでしょうか?

「それは?」
「飾り皿なんだが」
「ありがとうございます! どうぞこちらへ」
「先日とは随分、対応が違うような……」
「お仕事ですので、ありがたくお受けしますよ!」
「なるほど」

 お客さまだと思うと自然と浮き足だってしまいます。やはり私には、塩対応やら金づる扱いは無理そうです。

「こんな風になっていて、どうにかできるものなのだろうか」

 アランと名乗った彼が見せてくれたのは、美しい皿……だったものでした。落としてしまったのでしょうか、箱の中には大小さまざまな欠片が詰め込まれています。

「うーん、そうですね……」

 お直しすることはもちろん可能です。とはいえ、いくら金づ……お客さまとはいえ詐欺の片棒を担ぐわけにはいきません。

 まあ財産として陶磁器が大切にされていた時代ならばともかく、庶民にまで普及した今となっては、よほどの名品や貴重品でもない限り、修理代の方が高くつくのでその可能性は低いのですが。

「できるわ」
「本当か!」

 ちょっと、フェリシアったら。何を勝手に返事をしているのでしょう。部屋の隅の小鳥は、そしらぬ顔で小首を傾げています。

「ちなみにこちらはどなたさまのものでしょうか?」
「祖母のお気に入りだったらしい」
「新しく買い直すのではなく、修理したいだなんて、お皿も喜ぶわ」
「そう言ってもらえるとありがたい。ずいぶん前に壊れたものらしいのだが。今朝になって祖母がこの話を持ち出して、祖父と喧嘩になってしまってね。どうにか仲直りしてほしい」
「なるほど、承知いたしました」

 ……こっそり会話に混じってきたフェリシアを目で制止ながら、私はお仕事を引き受けました。
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