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 夜会当日は、前回の運の悪さが嘘のように順調だった。

 騎士団から呼び出しが入ることもなく、美容サロンで徹底的に磨き上げられた。もちろん、鳥の糞攻撃を受けることも、水たまりにはまることもない。

 食事はサロンで体型に響きにくく、腹持ちの良いという謎のスープを出された。なんでもサロンの店長の手作りらしい。よって、野良犬に襲われることもない。

「放っておくと、お前は遅刻するからな」

 そう言いながら、暴漢を捕まえた帰りだというアルヴィンが、夜会の会場まで送ってくれた。

 今日は失敗しないように。緊張で顔をひきつらせていると、空中にひとひらの花びらが舞った。

「きれい……」
「幸運を呼ぶまじないだ。安心しろ、何も心配することはない。もしも万一玉砕したら、やけ酒に付き合ってやる」

 そのまま彼が立ち去るのと同時に、エスコート相手が現れた。優しく手を差しのべられて、気がつく。昨日と今日の違いの原因を。

 窃盗集団が捕まえられて呼び出しが無くなったのも、ドレスをお直しすることができたのも、暴漢に巻き込まれなかったのも、全部彼のおかげだ。よく考えれば、彼はまるではかったかのように私の前に現れた。

 どんなに優秀な魔導士といえども、では時を遡ることはできないとされている。そんな無理を叶えるには、ひとならざるものの助けを借りるしかないのだと。そしてそれには、必ず代償が伴うのだと。

 彼は、私のために一体何を犠牲にした? 大事なアルヴィンにもしものことがあったら、きっと私は生きていけない。

 拳を握りしめ、深く頭を下げる。

「失礼します。本日は所用のため、夜会を欠席いたします。申し訳ありませんが、これにて失礼いたします」
「……わかりました。どうぞ、お気をつけて。ちょうど会場にが来ておりましたので、僕のことはお気になさらず」
「妹さんですか?」
「きゃあああ、先輩、素敵過ぎますぅ。やっぱりぃ先輩にはぁ、こんなインケン眼鏡よりもぉ、あの魔導士さまがお似合いですぅ」
「まったく、兄に向かってその言い方はどうかと思うよ」
「そちらの都合でぇ養子に出しておいてぇ、今さら妹と言われてもぉ鳥肌が立ちますぅ」
「ははは、僕もお前のような猫かぶりな妹を持って幸せだよ」
「そこは、可愛いって言えや、クソ眼鏡」

 この二人、前回は見つめ合っていると思っていたが、どうも睨みあっていたらしい。しかも後輩は、ドレスの下でぐりぐりと兄とやらの足を踏んではいないか。

「ええと……、それでは私はこれで」
「先輩ぃ、大好きですぅ。週明けには、らぶらぶなお話をぉたくさん聞かせてくださいねぇ」
「お前の大事な先輩が、幸せになれそうでよかったよ」
「うっさい、黙れ、イヤミ眼鏡」
「やれやれ、化けの皮が剥がれているぞ」

 後ろでふたりが何やら騒いでいるようだったが、放置して駆け出した。

 私は走る。
 大切な魔導士の元へ。
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