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 参加を予定していた夜会は、世話焼きでちょっと庶民的な王妃さまの発案で開かれている。「王宮で働く人々にこそ楽しみを」という名目で、未婚の独身男女の出会いの場として大変人気があるのだ。

 さらには招待客が壁の花になることがないように、事前にそれぞれのエスコート相手も指定してくれるという徹底ぶりだ。

 自分から立候補できるわけではなく、声がかかるまで待つしかない。王宮で働き始めてはや幾年。ようやっと、私の番が回ってきたと思ったのに……。

 思っていた以上にがっかりしていたらしい。深々とため息をついていると、同僚のアルヴィンに声をかけられた。魔導士の彼は、一緒に任務にあたることも多く、信頼できる友人でもある。

「ケイト、今夜は例の夜会ではなかったか。どうしてこんなところにいるんだ」
「ちょっと予想外の出来事があって。今から帰るところ。あなたは行かなかったの?」
「残念ながら、招待状が来なくてな」
「あら、高給取りの魔導士さまが参加したら、みんな喜びそうなのにね」
「ローブを着たままでよければ、参加してやる」
「うーん……。ダンスは踊りにくそうだし、何より怪しいわ」

 彼ら魔導士は、顔どころか手足も見えない特殊なローブを羽織っている。ローブの奥には虚無があるという噂もあるくらい、向こう側は何も見えないのだ。

 ひとならざる美貌が隠されているだとか、特別な加護や祝福を持っているという眉唾な噂もあるらしい。ローブを剥ぎ取ろうとしたあげく、手酷い報復を受けた輩も多いと聞く。

「ねえ、これから時間ある?」
「どうせ時間がなくても、付き合わせるつもりだろう」
「いいじゃん、おごるからさあ」
「……夜会に行かずに酒場に行くということは、やけ酒か」
「黙秘します」
「……なるほど、承知した」

 街まで移動しようとする彼を、慌てて止める。

「ああ、ちょっと待って。この格好じゃあ」
「確かにその姿では、いつもの酒場で目立ち過ぎる。それなりの店の個室を手配しよう」
「みっともなくて悪うござんしたね」
「は?」
「……どうせ、おしりがぴちぴちで座れないわよ」
「なるほど」
「じろじろ見るんじゃない」

 そこで私はひらめいた。

「あ、わざわざ着替えなくてもいいか。ねえ、予備のローブとか持ってない?」
「なぜローブ?」
「ローブの中でドレスをたくしあげちゃえばいいじゃない! どうせ、ローブの中身は見えないんだし」

 これぞ虚無虚無作戦だ。ついでに、飲んだくれている姿を他人に見られる心配もなくなる。

「ふざけるな」
「大丈夫、ローブの秘密は守るから!」
「そういう問題ではない! 家に帰るのが面倒だと言うのなら、さっさと騎士団で制服に着替えてこい!」

 めちゃくちゃ怒られた。魔導士のローブは、まあ確かに騎士服みたいなものだもんね。勝手に他人には貸せないか。
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