捨て子のエイプリルと、忘れられたぬいぐるみの王子さま

石河 翠

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 今日も今日とて、エイプリルはバーナードとゴミを漁ります。といっても、バーナードはエイプリルの持つかばんの中に入っているだけなのですが。

 その途中、バーナードは大きな通り沿いでお菓子屋さんを見つけました。甘くってお腹が空くようないい匂いが、通りの端っこまで漂ってきます。

「エイプリル、クッキーだ!」
「そうね。いつかお腹いっぱい食べてみたいわ」
「ねだったら、1枚くらいくれないのか?」
「そんなことをしたら、水をぶっかけられるわよ」

 バーナードには、エイプリルの言葉が理解できません。お父さんである王さまと一緒に町へ出かけたこともありますが、どんなひとも喜んで店のものをバーナードに差し出してきました。欲しいと店先を指差したなら、みんなが嬉しがったくらいです。

 エイプリルが言うほど、みんなは意地悪ではないのではないでしょうか。そう思ったバーナードは、勝手にエイプリルから離れて、お店のクッキーをひとつだけくすねてきました。そうしてまたこそこそと、かばんの中まで戻ってきたときです。

「泥棒!」

 お菓子屋さんのおかみさんが叫びました。バーナードは大慌てでかばんの底に隠れます。すごい勢いで走ってきたおかみさんに腕を掴まれたエイプリルは、びっくりしてしまいました。

「あたし、何にも盗っちゃいないわ!」
「うるさい、この盗っ人め」

 唇をぎゅっと引きむすんだエイプリルは、かばんの中からクッキーを見つけると、さらに怖い顔をしました。けれどもうそれ以上、違うとは言いませんでした。代わりにクッキーをおかみさんに返して、ごめんなさいと頭を下げたのです。

「まったく、もう二度とうちの店に近づくんじゃないよ」

 うんと叱られたエイプリルは、こくんと小さくうなずきました。家に帰るとエイプリルは、目にいっぱい涙をためてバーナードを壁に投げつけました。

「どうしてあんなことをしたの?」
「あんなに怒られるなんて思ってもみなかったんだ。でも、エイプリルだってクッキーを食べたかったんだろう。なんで返してしまったんだ」
「美味しい朝ごはんを分けてくれるのは、あのひとだったのに」
「店なら他にいくらでもある」
「あのひとの代わりはいないわ。あんたは、あのひとの信頼を裏切ったのよ」

 エイプリルはなにもわかっていないバーナードにすっかり怒ってしまいました。

 バーナードは、悔しいような悲しいような何とも言えない気持ちになりました。自分が悪いことをしてしまったというのはわかっています。それなのに、どうしても「ごめんなさい」の一言が言えません。

「……」
「言いたいことがあるなら、口に出して言いなさいよ」
「……」
「もう、バーナードなんか知らない。勝手にすれば」

 エイプリルはそっぽを向いたまま。バーナードはうなだれたま、とぼとぼと部屋を出て行きました。
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