捨て子のエイプリルと、忘れられたぬいぐるみの王子さま

石河 翠

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 それからバーナードが反省したかというと、残念ながらそうでもありません。朝起きてから夜眠るまで、お城の生活を恋しがってばかりです。

「子どもはたくさん眠るのが仕事なのに」
「でも起きないと、ごはんがなくなるわ」
「ごはんは普通、ごみ捨て場から漁らない」
「だから早く起きるのよ」

 今日の戦利品は、しなびたりんごと少しだけ硬くなったミートパイでした。エイプリルのことを邪魔者扱いしないひとが、昨日の残り物を分けてくれたのです。表立って優しくしてはくれませんが、これだけでも十分に親切なひとだとエイプリルはわかっています。

「……美味しくない」
「いらないなら、あたしにちょうだい」
「お城では朝からアイスクリームだって食べられた」

 お城のごはんというものは、どういうものでしょうか。大通りのレストランのような良い匂いのするごはんが毎日出てくるのでしょうか。思わずよだれを垂らすエイプリルの隣で、バーナードは天井を見上げました。

「クッキーが食べたい」
「そんな高級なもの、食べられると思ってるの?」
「最初の日に約束したじゃないか」
「あたしは、手に入ったらって言ったわよ」

 エイプリルだって、食べられるものなら食べたいのです。ずっと昔に食べたことのあるクッキーは、甘くってほろほろしていて、とっても優しい味がしました。

「エイプリルは、どうして孤児院に行かないんだ。この国では、親のいない子どもが不自由しないために孤児院があるだろう」

 バーナードの言葉に、エイプリルが呆れたように鼻を鳴らしました。

「親のいない子ども全員が、孤児院に入れると思っているの?」
「そのための孤児院だろう?」
「慈善事業じゃないのよ。引き取り手が見つかりそうにない子どもは、入れてもらえないの」
「孤児院は、慈善事業だぞ」
「それは偉いひとの頭の中の話よ。あたしなんて、育てる意味がないって言われたわ」

 エイプリルだって馬鹿ではありません。孤児院で暮らしたほうが、今よりもましな生活ができるとわかっています。けれどエイプリルはせっかく入れた孤児院から、すぐに出ていく羽目になりました。

「なんで追い出されたの?」
「他のみんなと何か違うから、浮いちゃうんだって。ちゃんとお手伝いもしたし、勉強だって頑張ったのに」

 勉強嫌いのバーナードと、勉強さえさせてもらえなかったエイプリル。それぞれの身の上を比べて、エイプリルは胸がちくちくします。誰の邪魔にもならないように、うんと静かにすることを覚えたのはそれからです。

「バーナードはさ、あたしと違って帰る場所があるんでしょ。だったら、魔女に謝ればいいんじゃない?」
「嫌だよ。どうせ謝ったところで、僕のことなんてもうみんな覚えてやしないんだ」

 謝っても死ぬことなんてないのに。エイプリルは頑固なバーナードを見て、小さくため息をつきました。
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