身代わりで生贄となりましたが、なぜか聖女になってしまいました。美味しく食べられることが最終目標なので、聖女認定は謹んでお断りします!

石河 翠

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「今月もありがとうございます。我々が健やかに暮らしていけますのも、領主さまのおかげです」
「身の程をわかっていればよいのだ。大体、領主であるわしを崇めずに、神などというわけのわからん代物を……」
「領主さま、それ以上はいけません。あら、雨。さっきまで、あんなに晴れておりましたのに。もしやこれも……」
「わ、わしは帰るぞ!」

 大騒ぎしながら帰っていく実父を見て、ため息をつく。この程度でびびるくらいなら、まず替え玉を企むなよ。そもそも祀られてる神さまに天候を操る力はあるのか?

「神父さま、ありがとう!」
「いえいえ、レベッカのお役に立てたようでなによりです」

 雨に見せかけたのは、魔法で生み出された少量の水。この教会に勤める神父さまの仕業だ。権力者をおちょくる神父さま、相当な修羅場をくぐってきたと思われる。

「今月分も無事に確保! まず両親に渡すぶんを取り置いてっと。よし、村の子どもたちの昼食分と教会の修繕費は十分ね」

 生贄になることが決まってからすぐ、私は養父母の家を出た。「教会で身を清めるため」ともっともらしいことを告げたけれど、本当の理由のひとつは実父とのやりとりを見せたくなかったから。

「それにしても、あのひと暇人ね」
「暇……というわけではないと思いますよ」

 じゃあなぜに手ずからお金を持ってくるのか。信頼してお金を預ける相手がいないってこと?

「レベッカは元気ですねえ。さきほどまで、しんみりとうつむいていたとはとても思えません」
「神父さま。ああいうひとは、自分の嫌いな相手が不幸そうにしていることが大好きなのよ。不幸せそうに振る舞うことがお金を滞りなくもらうコツなの」
「したたかですね」
「頭を下げるだけでお金が手に入るんだもの、喜んで頭を下げるわ」

 金があるにこしたことはない。なにせお世話になっている教会の屋根は破れ、すきま風が入りまくっている。管理をしているのは神父さまだけで、信者の姿はひとりも見えない。

 おかしくない? 生贄を捧げる土地の神さまを祀っているのなら、もうちょっと信仰を集めようよ。

「そうやって、この教会にも転がり込んできたんでしたっけ。あなたが丁寧語で頭を下げる時は、だいたい何か企んでいるんだと、僕も最近覚えました」
「常日頃から丁寧語で話す神父さまが、それを言う?」

 ツッコミを入れれば、神父さまがくつくつと喉を鳴らした。その笑顔に、つられて笑ってしまう。私が家を出たもうひとつの理由は、神父さまだ。

 何か辛いことがあると駆け込んだ教会。何も言わずに笑顔で迎えてくれる神父さまにどれだけ救われたことか。

 もちろんあわよくば……なんてことは思っていない。だって、相手は聖職者だもんね。でも、死ぬ前に思い出がほしかった。一つ屋根の下なんて、なんだか同棲しているみたいでそれだけで十分幸せだったりする。

 まあ神父さまから見れば、いまだに泣きべそをかいている子どもに軒先を貸している感覚なんだろうなあ。

「神父さま、買い出しに行ってきてもいいかしら?」
「大丈夫ですよ。青空教室のあとに、また炊き出しをするつもりですね?」
「はい。先生役を押しつけちゃってごめんなさい」

 いくら、簡単な読み書き計算が将来の役に立つとはいえ、働き手を奪っているわけだからね。ご飯みたいな、目に見える利益がないとやっぱりひとは集まらない。草の根運動、超大事!

「レベッカは優しいですね」
「まさか。全部、自分のためよ」 

 教会を修繕するのも、青空教室や炊き出しを行うのも、利己的な目的だ。どうせ死ぬなら、少しでも神父さまの役に立つほうがいいから。

「信者さん、100人獲得できるかなっ」
「信者さんのことを、金のなる木みたいに言ってはいけませんよ」
「そこまで言ってないし! その発想が出てくる時点で、そう思っているのは神父さまのほうじゃないの?」

 そんなこんなで、生贄の過ごす日々は意外と穏やかなのだ。
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