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龍の花嫁は、それでも龍を信じたい(5)

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 ぱりぱりと薄い氷を割るような音が聞こえた。
 彼の内側から光があふれ、少年の姿がもろくも崩れていく。代わりに現れたのは、きらきらと輝く白銀の鱗だ。

 どうやってそこに閉じ込められていたのかと不思議に思うほどの質量が、そこから飛び出してきた。長い間温められた卵から、鳥の雛が孵るように、彼は本来の姿を手にしたのだろう。

 もともと恐ろしいほどに整っていた彼の姿は、人外になっても見惚れるほどに美しかった。美醜とは確かに種族の壁を越えるのだと実感するほどに。

「ああ、我が宝玉よ」

 するりと、彼が私の身体に絡みついた。人間の姿とは異なるどこかひんやりとした感覚が心地よくて、自分から頬を寄せてみる。、思わず笑みがこぼれた。

「神殿で聞いていた話とは違うのですね」

 龍は私に優しい。いや、。私の言葉に、龍が喉を鳴らして笑った。

 神殿は、この国の人間たちにとって都合が良いように書きかえた物語を伝えていたのだろうか。例えば、龍から奪いとった豊穣の力を隠すために。力を失うことは、この国がかつての荒れ果てた貧しい国へ逆戻りすることを意味するのだから。

 孤独にさせたのは、情報を遮断させるため。
 文字を知れば、疑いを持つかもしれないから。
 真実を知れば、自由を求めるかもしれないから。

 考えれば考えるほど、しっくりときた。頭を使うことは苦手だったはずなのに、なぜかとても納得できる。



 龍の瞳が、私をまっすぐに見つめている。こんな風に誰かに見つめられたことは初めてで、それが何よりも嬉しい。私に差しのべられた大きなてのひら。あなたがいれば、私は他に何も要らない。

「さあ行こうか」
「ええ、ずっと一緒です」

 私の言葉に、龍が満足そうに目を閉じた。この選択を後悔することなんてきっとない。彼が私を受け入れてくれるというのなら、どこまでも行こう。この空の彼方まで。




 かつて隆盛を誇った王国が、一夜にして崩壊したという。まるで神の怒りに触れたかのように、唐突に水が干上がり、草木が枯れたのだそうだ。そこは、今では広大な砂漠となっている。通称、龍の嘆きと呼ばれる場所にあったかつての大国を知るものは、今はもういない。
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