脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠

文字の大きさ
上 下
5 / 11

(5)

しおりを挟む
「何が難しいの?」
「ええ、ちょっと聞きたいことがあったのですけれど、さすがに話の流れも何もないまま聞くのは難しいなあと」
「具体的に店長さんに何を聞きたいの?」
「ああ、そうですね。犬の話なんですけれど」

 その瞬間、店内の音が突如消えてなくなった。え、なに、なに、なに。ちょっと怖いんですけれど? こういうドッキリみたいな反応、やめてもらえます?

「犬って、犬?」
「そうです、とっても魅力的で近づかずにはいられない魔性のわんこの秘密についてなんですけれど」

 力説しすぎたのか、常連さんがなんとも言えない顔で腕を組んだままうなり始めた。

「犬、犬かあ。あなたは、犬への嫌悪感とかないの?」

 うん? なんだろう、アレルギーとかの心配かな。ありがたいことに動物全般大好きなんだよね。向こうさんからはあまり好いていただけないのが悲しいところなんだけれど。

「え、あるわけないじゃないですか。忠誠心が高くて、ひたすら一途。決して相手を裏切らないところなんて、最高です」
「そっか、そうなんだ。ふんふん、なるほど。それなら、まあ問題ないか」
「ええ。むしろこんなに大好きなのに、ちっとも相手には好きになってもらえなくて。それだけが悲しいところなんですね」
「あひゃひゃひゃ。まさか、ここで、こんな面白恋愛話を聞くことができるとか思わなかったよ。よーし、みんな、飲もう! 熱い愛の告白に乾杯!」
「え、何を言って……。ちょっと、べろんべろんでひとの話、聞いてないし!」

 犬に反応していたってことは、やっぱり常連さんたちはもふもふわんこのことを知っているのでは? すみまん、その話、詳しく教えてくださいいいい。駄目だ、完全に酔っぱらいと化している。もしもーし。最終的に何の解決も見せないまま、あっさり酔いつぶれるのはやめてもらえませんかね?

 珍しく場末の酒場のように騒がしくなったのもつかの間、結局常連さんは、一緒にいた腐れ縁らしい男友達に抱えられて店を出ていった。あれは、絶対に男の人が女の人を恋愛対象として狙っている感じだな。でも、相手の気持ちが自分に向くまでは絶対に手を出さない真面目さんだ。わかる、わかるぞ! 男ばっかりの騎士団に所属しているからこそ、ひとさまの色恋には敏感になるもの。このミリセントさまに死角はないのだ! お目当てのわんこは探せない節穴だけれどね!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

催眠術にかかったフリをしたら、私に無関心だった夫から「俺を愛していると言ってくれ」と命令されました

めぐめぐ
恋愛
子爵令嬢ソフィアは、とある出来事と謎すぎる言い伝えによって、アレクトラ侯爵家の若き当主であるオーバルと結婚することになった。 だがオーバルはソフィアに侯爵夫人以上の役目を求めてない様子。ソフィアも、本来であれば自分よりももっと素晴らしい女性と結婚するはずだったオーバルの人生やアレクトラ家の利益を損ねてしまったと罪悪感を抱き、彼を愛する気持ちを隠しながら、侯爵夫人の役割を果たすために奮闘していた。 そんなある日、義妹で友人のメーナに、催眠術の実験台になって欲しいと頼まれたソフィアは了承する。 催眠術は明らかに失敗だった。しかし失敗を伝え、メーナが落ち込む姿をみたくなかったソフィアは催眠術にかかったフリをする。 このまま催眠術が解ける時間までやり過ごそうとしたのだが、オーバルが突然帰ってきたことで、事態は一変する―― ※1話を分割(2000字ぐらい)して公開しています。 ※頭からっぽで

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

貴方とはここでお別れです

下菊みこと
恋愛
ざまぁはまあまあ盛ってます。 ご都合主義のハッピーエンド…ハッピーエンド? ヤンデレさんがお相手役。 小説家になろう様でも投稿しています。

ダメンズな彼から離れようとしたら、なんか執着されたお話

下菊みこと
恋愛
ソフトヤンデレに捕まるお話。 あるいはダメンズが努力の末スパダリになるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。

寒い夜だから、夫の腕に閉じ込められました

絹乃
恋愛
学生なのに結婚したわたしは、夫と同じベッドで眠っています。でも、キスすらもちゃんとしたことがないんです。ほんとはわたし、キスされたいんです。でも言えるはずがありません。

貴族令嬢ですがいじめっ子たちが王子様からの溺愛を受けたことが無いのは驚きでした!

朱之ユク
恋愛
 貴族令嬢スカーレットはクラスメイトのイジメっ子たちから目をつけられていた。  理由はその美しい容姿だった。道行く人すべてがスカーレットに振り返るほどの美貌を持ち、多くの人間が彼女に一目ぼれする容姿を持っていた。  だから、彼女はイジメにあっていたのだ。  しかし、スカーレットは知ってしまう。  クラスメイトのイジメっ子はこの国の王子様に溺愛を受けたことが無いのだ。  スカーレットからすれば当たり前の光景。婚約者に愛されるなど当然のことだった。  だから、スカーレットは可哀そうな彼女たちを許すことにしました。だって、あまりにみじめなんだから。

逃げて、追われて、捕まって (元悪役令嬢編)

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で貴族令嬢として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 *****ご報告**** 「逃げて、追われて、捕まって」連載版については、2020年 1月28日 レジーナブックス 様より書籍化しております。 **************** サクサクと読める、5000字程度の短編を書いてみました! なろうでも同じ話を投稿しております。

処理中です...