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「ミリセントちゃん、よかったら家まで送るよ」
「えっ、そんな申し訳ないです。店長さん、お忙しいですよね」
「君がひとりでちゃんと家に帰れるかを心配していたら、仕事にならないからね。わたしの心の安寧のためにも送らせてほしいんだよ」
なんて自然な言い方! 店長さんが私なんかを心配するはずないんだけれど、そうやって押しつけがましくなく言われてしまえば、私だって悪い気はしない。ありがたく自宅まで送っていただくことにした。この流れで、店長さんの正体はあのわんこさんですか?って聞くこともできるかもしれないし。それなのに、本当についてない。まさかこんなところで奴に会うなんて。
「ミリー、君は騙されているんだ。俺にはわかる」
「いつまでも愛称を呼ばないでくれる? 不愉快なんだけれど」
何をとち狂ったのか、元カレがドヤ顔で私に花束を差し出してきた。どうして急に復縁を申し込んできたのかなんて、簡単に予想できる。私の捨て方があまりに酷すぎて、騎士団内部で総スカンを食らったのだ。騎士団は男性の多い職場だから、みんなが自分の味方についてくれると思ったのかもしれないけれど、そうは問屋が卸さない。
あのひとたちは、脳筋だけれど筋は通すひとたちだ。それに、騎士団では女性事務員が書類仕事を一手に引き受けてくれている。力だけでは組織は成り立たない。その辺りのフォローをやってくれているお姉さまたちは、彼のやり口に大層ご立腹だった。ちょっとした仕返しとして、彼の分の事務作業が放置……もというっかり後回しにされていたのだろう。ここ最近では、さまざまな部署の偉いひとに元カレが叱られているのもよく目にしていた。
そんな姿に、新しい彼女ちゃんからは「騎士なのに、カッコ悪い」と捨てられてしまったのだとか。「騎士」だったら、力でなんとかなると思ったのかな。そんな盗賊みたいな集団、逆に怖いだろ。
脳内でツッコミを続ける私を元カレから隠すように、店長さんが間に立ってくれる。
「ミーちゃん、このひと、知り合い?」
「元カレです」
っていうか、変な愛称を勝手につけないでください。猫ですか、私?
「ふーん、そう。もしあれなら、わたしがすぐにでも片付けちゃうけれど?」
「いいえ、大丈夫です。これは、私と彼との問題ですから。私自身の手で片をつけます」
ぎゃー、店長さんいけません! それって魔法ですよね? 魔法使っちゃいますよね?
わんこが人間を傷つけたら、最悪、保健所送りです。何かしらの事情があれば情状酌量の余地があるかもしれませんが、この男は腐っても騎士。自分に都合の良いように言い訳をするに決まっています。万が一、店長さんに何かあったら、私、生きていけません。
まだ撫でさせてももらっていない、もふもふの毛並みを想像しながら、私は店長さんの揺れる尻尾のような長い髪を見つめた。よし、愛しのわんこのためなら頑張れる!
剣は持っていなくても、この腐れ男には負けはしない。
「えっ、そんな申し訳ないです。店長さん、お忙しいですよね」
「君がひとりでちゃんと家に帰れるかを心配していたら、仕事にならないからね。わたしの心の安寧のためにも送らせてほしいんだよ」
なんて自然な言い方! 店長さんが私なんかを心配するはずないんだけれど、そうやって押しつけがましくなく言われてしまえば、私だって悪い気はしない。ありがたく自宅まで送っていただくことにした。この流れで、店長さんの正体はあのわんこさんですか?って聞くこともできるかもしれないし。それなのに、本当についてない。まさかこんなところで奴に会うなんて。
「ミリー、君は騙されているんだ。俺にはわかる」
「いつまでも愛称を呼ばないでくれる? 不愉快なんだけれど」
何をとち狂ったのか、元カレがドヤ顔で私に花束を差し出してきた。どうして急に復縁を申し込んできたのかなんて、簡単に予想できる。私の捨て方があまりに酷すぎて、騎士団内部で総スカンを食らったのだ。騎士団は男性の多い職場だから、みんなが自分の味方についてくれると思ったのかもしれないけれど、そうは問屋が卸さない。
あのひとたちは、脳筋だけれど筋は通すひとたちだ。それに、騎士団では女性事務員が書類仕事を一手に引き受けてくれている。力だけでは組織は成り立たない。その辺りのフォローをやってくれているお姉さまたちは、彼のやり口に大層ご立腹だった。ちょっとした仕返しとして、彼の分の事務作業が放置……もというっかり後回しにされていたのだろう。ここ最近では、さまざまな部署の偉いひとに元カレが叱られているのもよく目にしていた。
そんな姿に、新しい彼女ちゃんからは「騎士なのに、カッコ悪い」と捨てられてしまったのだとか。「騎士」だったら、力でなんとかなると思ったのかな。そんな盗賊みたいな集団、逆に怖いだろ。
脳内でツッコミを続ける私を元カレから隠すように、店長さんが間に立ってくれる。
「ミーちゃん、このひと、知り合い?」
「元カレです」
っていうか、変な愛称を勝手につけないでください。猫ですか、私?
「ふーん、そう。もしあれなら、わたしがすぐにでも片付けちゃうけれど?」
「いいえ、大丈夫です。これは、私と彼との問題ですから。私自身の手で片をつけます」
ぎゃー、店長さんいけません! それって魔法ですよね? 魔法使っちゃいますよね?
わんこが人間を傷つけたら、最悪、保健所送りです。何かしらの事情があれば情状酌量の余地があるかもしれませんが、この男は腐っても騎士。自分に都合の良いように言い訳をするに決まっています。万が一、店長さんに何かあったら、私、生きていけません。
まだ撫でさせてももらっていない、もふもふの毛並みを想像しながら、私は店長さんの揺れる尻尾のような長い髪を見つめた。よし、愛しのわんこのためなら頑張れる!
剣は持っていなくても、この腐れ男には負けはしない。
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