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「なんか、疲れちゃった。商品、どれくらい売れてたっけ。ある程度さばけたなら、もう帰りたいな……って、ノア、何をそこで盛り上がっているの?」
「何って、ふたりのなれそめについて話しています」
「はあ?」

 瞳をきらきらと輝かせたおばちゃんたち。娯楽が少ない田舎では、ちょっとした痴話喧嘩ですら噂になるのに、こんなの面白おかしくみんなが飛びつくに決まっているでしょうが。

「やだもう、ルイーズちゃんったら、めちゃくちゃロマンチックじゃない!」
「呪いをかけられたけれど、愛するひとのキスで目覚めたなんてお姫さまみたい!」

 いやだからですね、私、元からお姫さまなんですよ。生まれた時から王女さま、将来は女王さまなのよ。みんな、聞く気ないよね?

「それでプロポーズの言葉は?」
「新婚旅行はどこへ行くの?」
「子どもは何人欲しいのかしら?」

 ひいいい、おばちゃんたちの押しの強さには敵わないよ! 誰か助けて! 番犬のスーさんはにこにこしながら一緒におばちゃんたちのおしくら饅頭に混じってくるし、ノアはなんだか嬉しそうだし。

「ルイーズさまは、わたしが夫ではお嫌ですか」
「そんなこと、ないけど」

 むしろ、このままノアと一生辺境暮らしなら幸せだろうなって言うくらい好きですけど!

「けど?」
「だって、さっきの話はあくまで元婚約者対策で」
「違いますよ。わたしは、ルイーズさまのおそばにいたかったから一緒に辺境まで来たんです。本当に何もしないで目覚めたと思ったんですか。あんな元婚約者なんかに、あなたを譲るわけないでしょう? わたしのルイーズ」

 ひえっ、破壊力抜群。突然の名前呼びで腰砕けだよ。美形、恐るべし。周りのおばちゃんたちもみんな立ちくらみを起こしたみたいで、いっせいに崩れ落ちている。うん、うん。わかるよ、その気持ち。

「それでは、いつ頃城に戻りましょうか?」
「え?」
「ご両親に合わせる顔がないと言っていたでしょう。でも、晴れてお婿さんができたわけですし。第二王女殿下もお待ちかねのようですしね」

 ゆっくりと周りを見渡す。数ヶ月のうちにすっかり馴染んだこの土地。おおらかで優しくて気のいい近所のおばちゃんたち。家の裏の畑には、育てている途中の薬草や野菜たちがある。それはきっと他のひとに引き継いでもらうこともできるだろうけれど、もう私の手では育てられないのだろう。

「……ここから離れるのは寂しいね。まあ、王族がいつまでものんびりスローライフとかやってる場合じゃないか」
「……なるほど、わかりました」
「ちょ、何やってるの?」
「いえ、次元をいじって、こちらと王城を繋げました。わたしが設定したひと以外は通れませんので、安心してください」
「そんなさらりと、伝説の魔王さまみたいなことをして……」
「お嫌でしたか?」
「まさか。さすが、ノアはすごいね! これでお仕事をしながら、気軽にこっちに遊びに来られるのね!」

 ちょっとやんちゃな義妹を立派に聖女に育て上げ、私は女王としてこの国をよりよい方向に導いてみせる。自分ひとりなら無理なことでも、ノアと一緒ならなんでもできるような気がした。

 わたしのお気楽スローライフは、まだまだ始まったばかりなのだ!
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