6 / 7
(6)
しおりを挟む
「なんか、疲れちゃった。商品、どれくらい売れてたっけ。ある程度さばけたなら、もう帰りたいな……って、ノア、何をそこで盛り上がっているの?」
「何って、ふたりのなれそめについて話しています」
「はあ?」
瞳をきらきらと輝かせたおばちゃんたち。娯楽が少ない田舎では、ちょっとした痴話喧嘩ですら噂になるのに、こんなの面白おかしくみんなが飛びつくに決まっているでしょうが。
「やだもう、ルイーズちゃんったら、めちゃくちゃロマンチックじゃない!」
「呪いをかけられたけれど、愛するひとのキスで目覚めたなんてお姫さまみたい!」
いやだからですね、私、元からお姫さまなんですよ。生まれた時から王女さま、将来は女王さまなのよ。みんな、聞く気ないよね?
「それでプロポーズの言葉は?」
「新婚旅行はどこへ行くの?」
「子どもは何人欲しいのかしら?」
ひいいい、おばちゃんたちの押しの強さには敵わないよ! 誰か助けて! 番犬のスーさんはにこにこしながら一緒におばちゃんたちのおしくら饅頭に混じってくるし、ノアはなんだか嬉しそうだし。
「ルイーズさまは、わたしが夫ではお嫌ですか」
「そんなこと、ないけど」
むしろ、このままノアと一生辺境暮らしなら幸せだろうなって言うくらい好きですけど!
「けど?」
「だって、さっきの話はあくまで元婚約者対策で」
「違いますよ。わたしは、ルイーズさまのおそばにいたかったから一緒に辺境まで来たんです。本当に何もしないで目覚めたと思ったんですか。あんな元婚約者なんかに、あなたを譲るわけないでしょう? わたしのルイーズ」
ひえっ、破壊力抜群。突然の名前呼びで腰砕けだよ。美形、恐るべし。周りのおばちゃんたちもみんな立ちくらみを起こしたみたいで、いっせいに崩れ落ちている。うん、うん。わかるよ、その気持ち。
「それでは、いつ頃城に戻りましょうか?」
「え?」
「ご両親に合わせる顔がないと言っていたでしょう。でも、晴れてお婿さんができたわけですし。第二王女殿下もお待ちかねのようですしね」
ゆっくりと周りを見渡す。数ヶ月のうちにすっかり馴染んだこの土地。おおらかで優しくて気のいい近所のおばちゃんたち。家の裏の畑には、育てている途中の薬草や野菜たちがある。それはきっと他のひとに引き継いでもらうこともできるだろうけれど、もう私の手では育てられないのだろう。
「……ここから離れるのは寂しいね。まあ、王族がいつまでものんびりスローライフとかやってる場合じゃないか」
「……なるほど、わかりました」
「ちょ、何やってるの?」
「いえ、次元をいじって、こちらと王城を繋げました。わたしが設定したひと以外は通れませんので、安心してください」
「そんなさらりと、伝説の魔王さまみたいなことをして……」
「お嫌でしたか?」
「まさか。さすが、ノアはすごいね! これでお仕事をしながら、気軽にこっちに遊びに来られるのね!」
ちょっとやんちゃな義妹を立派に聖女に育て上げ、私は女王としてこの国をよりよい方向に導いてみせる。自分ひとりなら無理なことでも、ノアと一緒ならなんでもできるような気がした。
わたしのお気楽スローライフは、まだまだ始まったばかりなのだ!
「何って、ふたりのなれそめについて話しています」
「はあ?」
瞳をきらきらと輝かせたおばちゃんたち。娯楽が少ない田舎では、ちょっとした痴話喧嘩ですら噂になるのに、こんなの面白おかしくみんなが飛びつくに決まっているでしょうが。
「やだもう、ルイーズちゃんったら、めちゃくちゃロマンチックじゃない!」
「呪いをかけられたけれど、愛するひとのキスで目覚めたなんてお姫さまみたい!」
いやだからですね、私、元からお姫さまなんですよ。生まれた時から王女さま、将来は女王さまなのよ。みんな、聞く気ないよね?
「それでプロポーズの言葉は?」
「新婚旅行はどこへ行くの?」
「子どもは何人欲しいのかしら?」
ひいいい、おばちゃんたちの押しの強さには敵わないよ! 誰か助けて! 番犬のスーさんはにこにこしながら一緒におばちゃんたちのおしくら饅頭に混じってくるし、ノアはなんだか嬉しそうだし。
「ルイーズさまは、わたしが夫ではお嫌ですか」
「そんなこと、ないけど」
むしろ、このままノアと一生辺境暮らしなら幸せだろうなって言うくらい好きですけど!
「けど?」
「だって、さっきの話はあくまで元婚約者対策で」
「違いますよ。わたしは、ルイーズさまのおそばにいたかったから一緒に辺境まで来たんです。本当に何もしないで目覚めたと思ったんですか。あんな元婚約者なんかに、あなたを譲るわけないでしょう? わたしのルイーズ」
ひえっ、破壊力抜群。突然の名前呼びで腰砕けだよ。美形、恐るべし。周りのおばちゃんたちもみんな立ちくらみを起こしたみたいで、いっせいに崩れ落ちている。うん、うん。わかるよ、その気持ち。
「それでは、いつ頃城に戻りましょうか?」
「え?」
「ご両親に合わせる顔がないと言っていたでしょう。でも、晴れてお婿さんができたわけですし。第二王女殿下もお待ちかねのようですしね」
ゆっくりと周りを見渡す。数ヶ月のうちにすっかり馴染んだこの土地。おおらかで優しくて気のいい近所のおばちゃんたち。家の裏の畑には、育てている途中の薬草や野菜たちがある。それはきっと他のひとに引き継いでもらうこともできるだろうけれど、もう私の手では育てられないのだろう。
「……ここから離れるのは寂しいね。まあ、王族がいつまでものんびりスローライフとかやってる場合じゃないか」
「……なるほど、わかりました」
「ちょ、何やってるの?」
「いえ、次元をいじって、こちらと王城を繋げました。わたしが設定したひと以外は通れませんので、安心してください」
「そんなさらりと、伝説の魔王さまみたいなことをして……」
「お嫌でしたか?」
「まさか。さすが、ノアはすごいね! これでお仕事をしながら、気軽にこっちに遊びに来られるのね!」
ちょっとやんちゃな義妹を立派に聖女に育て上げ、私は女王としてこの国をよりよい方向に導いてみせる。自分ひとりなら無理なことでも、ノアと一緒ならなんでもできるような気がした。
わたしのお気楽スローライフは、まだまだ始まったばかりなのだ!
11
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
【完結】帰れると聞いたのに……
ウミ
恋愛
聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。
※登場人物※
・ゆかり:黒目黒髪の和風美人
・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ
テントウムシは思った以上に肉食だった~聖女さまから追放された結果、無事にお婿さんをゲットしました~
石河 翠
恋愛
虫嫌いの聖女さまから、テントウムシの幼虫を守った主人公。そのために彼女は聖女さまの恨みを買い、王都から追い出されてしまった。
ひとり森で野宿する主人公の前に現れたのは、助けたはずのテントウムシ。異類婚姻譚や恩返しのお約束通り、その姿はうっとりするほど美しい。ただひとつ問題だったのは、相手がとびきりの美少女だったこと。あれれ、こういう時って、イケメンが現れるもんじゃなかったの? だってわたし、女なんですけど。
しっかりしているようで鈍感な主人公と、ほんわかしているようで意外としたたか、かつ肉食なテントウムシのお話。
この作品は、小説家になろう、エブリスタにも投稿しております。
醜い私を救ってくれたのはモフモフでした ~聖女の結界が消えたと、婚約破棄した公爵が後悔してももう遅い。私は他国で王子から溺愛されます~
上下左右
恋愛
聖女クレアは泣きボクロのせいで、婚約者の公爵から醜女扱いされていた。だが彼女には唯一の心の支えがいた。愛犬のハクである。
だがある日、ハクが公爵に殺されてしまう。そんな彼女に追い打ちをかけるように、「醜い貴様との婚約を破棄する」と宣言され、新しい婚約者としてサーシャを紹介される。
サーシャはクレアと同じく異世界からの転生者で、この世界が乙女ゲームだと知っていた。ゲームの知識を利用して、悪役令嬢となるはずだったクレアから聖女の立場を奪いに来たのである。
絶望するクレアだったが、彼女の前にハクの生まれ変わりを名乗る他国の王子が現れる。そこからハクに溺愛される日々を過ごすのだった。
一方、クレアを失った王国は結界の力を失い、魔物の被害にあう。その責任を追求され、公爵はクレアを失ったことを後悔するのだった。
本物語は、不幸な聖女が、前世の知識で逆転劇を果たし、モフモフ王子から溺愛されながらハッピーエンドを迎えるまでの物語である。
借金のカタとして売り飛ばされそうな貧乏令嬢です。結婚相手が誰になるのか天使様に尋ねてみたら、天使様もとい小悪魔と結婚することになりました。
石河 翠
恋愛
祖父の死後、借金の返済に追われるようになった主人公。借金のカタに売り飛ばされそうになった彼女は、覚悟を決めるためにある呪いに手を出す。その呪いを使えば、未来の結婚相手がわかるというのだ。
ところが呼び出したはずの「天使さま」は、結婚相手を教えてくれるどころか、借金返済のアドバイスをしてきて……。借金を返済するうちに、「天使さま」に心ひかれていく主人公。
けれど、「天使さま」がそばにいてくれるのは、借金を返済し終わるまで。しかも借金返済の見込みがたったせいで、かつての婚約者から再度結婚の申し込みがきて……。
がんばり屋で夢みがちな少女と、天使のように綺麗だけれど一部では悪魔と呼ばれている男の恋物語。
この作品は、アルファポリス、エブリスタにも投稿しております。
扉絵は、exaさまに描いていただきました。
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる