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 目に眩しいそのひとは、いきなり私の両手をつかんだ。おいおい、まずは挨拶とか頭を下げるとかでしょうよ。

「こんなところにいたのか、ルイーズ! 頼む、俺と一緒に王都へ帰ってくれ!」
「え、ルイーズちゃんを迎えに来たの?」
「こっちのイケメンじゃなくて?」

 おばちゃんたち、それ酷くないですか? 確かに私よりもノアの方が高貴な感じするけどさあ。

 噂の不審者が元婚約者とかさすがの私もびっくりだわ。よし、とりあえずなんか売りつけよう。

「いらっしゃいませ」
「おい、ルイーズ」
「会話をご希望ですね。10秒で銅貨1枚となります」
「どこのぼったくり酒場だ!」
「えー、私から義妹に乗り換えた婚約者とタダでしゃべりたくなんかないし」
「ルイーズから離れてわかった。やっぱりルイーズ、俺にはお前が必要だ」
「この間、散々デボラのことを誉めていた癖に?」
「あれは、噂だけを耳にしていたからだ。実物を見たら、勘違いだったことに気がついた。それにデボラも言っていたぞ、お前が俺と結婚するのなら、慰謝料なしで自分との婚約を解消してもいいと。さあ、結婚しよう」

 勘違いねえ。散々こちらは説明したのに、耳を貸さなかったのはどなたでしたっけ? ツッコミは果たせないまま、元婚約者の愚痴は続く。

「ルイーズ、聴いてくれよ。俺だって、浮気はよくないと思うんだ。だから、ちゃんと説明した上で他の女の元へ通おうとしたら、なんと断種すると脅してくるんだぞ! 横暴過ぎるだろう」
「ふーん」
「書類仕事をすれば、『そんなことも知らないの』と馬鹿にしたり、数字の間違いを上から目線でネチネチ指摘したり。こちらは婚約者だ、手伝っているのをありがたく思うべきではないか」
「へー」
「それになんだ。あの気まぐれさは。もう少しわがままを抑えて、おとなしくすることはできないのか!」
「ほー」

 このひと、本当に何もわからないまま私からデボラに乗り換えたのね。ここまで頭空っぽで、よく暮らしてこれたもんだわ。これ以上説得するのも面倒くさいし、さくっと諦めて帰ってもらおう。

「すでに結婚していますので、今さらプロポーズされても困るのですが」
「は?」
「ですから、既婚者です」
「う、嘘だ!」

 まあ、嘘だけれども。いいじゃん、嘘も方便だよ。ちらりと隣のノアを見れば、わかっていると言わんばかりに微笑まれた。そのまま腰に手を添えて、ぐっと引き寄せられる。ちょっと、ノアったらノリノリじゃん。

「まったく、ひとの妻に手を出すとはいい度胸ですね」
「だがデボラは確かに、『お義姉さまと結婚できたなら許す』と言ったんだぞ!」

 ノアが前線に立ってくれるなら、おバカさんのお相手はお任せしちゃおうっと。きゃー、ノアったらカッコいい、やっちゃえー! 振り返ってウインクとか、余裕じゃないですかー。

「そもそも第二王女殿下は、本当にあなたを許すつもりだったのでしょうかね」
「どういう意味だ」
「どういう意味も何も。第二王女殿下はわたしたちの関係をご存知ですからね」
「う、嘘だ……」

 嘘です。ノアったらさらに嘘を盛るなんて、まったく意地悪だね! いいぞ、もっとやれ。

「ルイーズさまと結婚できないことをわかっていて、あなたを煽ったのでは?」

 ありうる。日頃から、笑顔で意地悪なぞなぞを出してくるし! 「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」って聞かれて、答えるたびに正解が変わるもんね。パンダ、フライパン、Gパン、この間は腐ったパンだったけ?

「……そんな」
「それに第二王女殿下のことですから、他にも条件をつけられたのではありませんか。例えば、『自分との婚約解消をほのめかし、さらに第一王女との結婚ができなかった場合には、第二王女の部下として無期限で辺境で開墾に従事する』とか」
「!」

 図星かあ。デボラったら。また相手を煽りまくって冷静な判断を失わせたあげく、自分の都合のいいように誘導したのね。私も最初の頃はこの手に乗って、よくゲームに負けたものよ。見た目に騙されて相手を舐めてかかると痛い目にあうって学ばされたわ。
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