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「母上、そうお怒りになられてはお体にさわります」
「そうですよ、お義母さま。どうぞ落ち着いて」
「わたくしを母などと呼ばないでちょうだい。可愛いわたくしの息子を返して!」
夫が世間一般から見てクズ夫の時は貴婦人として凛とした振る舞いをしていた姑だったが、彼がより良い夫となった途端、息子がおかしくなったと騒ぎ出した。私たち夫婦が仲睦まじくしていることが、ほとほと許せないらしい。庭師に頼んで植えさせた竜胆の花も、荒れ狂う姑が踏み荒らしてしまう始末だ。
「お前は、息子じゃないわ。息子の皮をかぶった、化け物よ!」
「まあ、お義母さまったら」
「こんな卑しい女に尻尾を振るような犬がわたくしの息子を名乗るなんて!」
思ったよりも鋭い姑の言葉に、私は少しだけ感心した。この毒の花のような女性の息子への愛は、少なくとも本物であったようだ。
だが社交界の面々からしてみれば、面の皮だけは最高だが人間性は最低だった男が、嫁の献身のお陰で改心したようにしか見えない。おおかた、自分に都合の良い息子が嫁の味方をするようになったのが気に食わないのだろうと笑われるようになったが、私を貶めることにやっきになっている姑は気がついていないらしい。
息子が大好きだった姑は、ここ最近は出かけてばかりいる。普段はお友だちとやらに愚痴を聞いてもらっていたそうなのだが、あまりにも来訪し過ぎて最近はすげなく断られていると聞く。
だからこそ姑は、夫の幼馴染のお墓参りに出かけたのだ。姑の考える理想の嫁だった可愛らしい娘の元に。確かに物言わぬ彼女なら黙って姑の愚痴を聞いてくれるに違いない。
「墓参りはあんな風に怒り狂って、しかもひとりで行くべきものではないのだが。母のわがままにも困ったものだな」
「不勉強でごめんない。どうしてお墓参りにひとりで行ってはいけないのかしら。まさか昼日中からお化けが出るとでも言うの?」
私の質問に夫が笑い出した。おかしくてたまらないと涙を流して腹を抱える彼に、なんだか恥ずかしくて頬を膨らませてしまう。
「そうですよ、お義母さま。どうぞ落ち着いて」
「わたくしを母などと呼ばないでちょうだい。可愛いわたくしの息子を返して!」
夫が世間一般から見てクズ夫の時は貴婦人として凛とした振る舞いをしていた姑だったが、彼がより良い夫となった途端、息子がおかしくなったと騒ぎ出した。私たち夫婦が仲睦まじくしていることが、ほとほと許せないらしい。庭師に頼んで植えさせた竜胆の花も、荒れ狂う姑が踏み荒らしてしまう始末だ。
「お前は、息子じゃないわ。息子の皮をかぶった、化け物よ!」
「まあ、お義母さまったら」
「こんな卑しい女に尻尾を振るような犬がわたくしの息子を名乗るなんて!」
思ったよりも鋭い姑の言葉に、私は少しだけ感心した。この毒の花のような女性の息子への愛は、少なくとも本物であったようだ。
だが社交界の面々からしてみれば、面の皮だけは最高だが人間性は最低だった男が、嫁の献身のお陰で改心したようにしか見えない。おおかた、自分に都合の良い息子が嫁の味方をするようになったのが気に食わないのだろうと笑われるようになったが、私を貶めることにやっきになっている姑は気がついていないらしい。
息子が大好きだった姑は、ここ最近は出かけてばかりいる。普段はお友だちとやらに愚痴を聞いてもらっていたそうなのだが、あまりにも来訪し過ぎて最近はすげなく断られていると聞く。
だからこそ姑は、夫の幼馴染のお墓参りに出かけたのだ。姑の考える理想の嫁だった可愛らしい娘の元に。確かに物言わぬ彼女なら黙って姑の愚痴を聞いてくれるに違いない。
「墓参りはあんな風に怒り狂って、しかもひとりで行くべきものではないのだが。母のわがままにも困ったものだな」
「不勉強でごめんない。どうしてお墓参りにひとりで行ってはいけないのかしら。まさか昼日中からお化けが出るとでも言うの?」
私の質問に夫が笑い出した。おかしくてたまらないと涙を流して腹を抱える彼に、なんだか恥ずかしくて頬を膨らませてしまう。
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