玉砕するつもりで、憧れの公爵令息さまに告白したところ、承諾どころかそのまま求婚されてしまいました。

石河 翠

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「あら、ギディオンさま。どうなさったのですか」
「見てくれ。我が家の天使たちが描いた絵が素晴らしすぎて、もう壁に貼る場所がなくなってしまった。この芸術品を保管できないなんて、人類の損失だ。僕は一体どうすればいいんだ!」

 公爵家の壁一面に貼られているのは、我が家の子どもたちの落書きです。味がある絵だとは思いますが、ギディオンさまのように我を失うほどの名作かと言われるとその辺りはまあ口をつぐんでおきましょうか。

 けれど、あの頃のように大切だと思えるものがわからないギディオンさまよりも、今の親バカ気味のギディオンさまのほうが好ましく思えるのです。

「はいはい、ではこの中からあなたのお気に入りと、あの子たちのお気に入りをいくつか残して、貼り替えましょうね。剥がしたものはファイリングして、箱に入れておきます。しばらくしたら、さらに残しておくものを決めましょうか」
「くっ、この中から数枚だけを選ぶなんて、そんな非道なことは僕にはできない!」
「それでは、お仕事休憩の合間にでも選んでくださいませ」

 自分よりも片付けが苦手なかたが隣にいると、意外と動けるようになるものですね。そのぶん私が、取捨選択してフォローしています。

 片付け下手は、どんなものにも等しく思い出と価値を見出だしてしまう心優しいひと。そうフォローしてくれたかたこそが、片付け下手になるなんて。ギディオンさまは、未来の自分を見て人間らしくなったと喜ぶでしょうか。それとも、こんな自分は信じないと冷静に突っ込まれるのでしょうか。

 ギディオンさまが風景をまるで絵画のように保管することのできる魔道具を発明し、大切な子どもたちの絵を捨てずに済むと喜んだのも束の間、今度は家の中に魔道具があふれて頭を抱えることになるのはもう少し先のお話なのでした。
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