玉砕するつもりで、憧れの公爵令息さまに告白したところ、承諾どころかそのまま求婚されてしまいました。

石河 翠

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「ギディオンさまは、何かをとっておきたいとは思わないのですか? 資料などは特にいつ使うかわかりませんよね?」
「先ほど教科書の話をしたが、僕は一度見たものは忘れない。脳内にあっていつでも確認できるものを、わざわざ物理的に所有する必要性を感じたことがなかった」
「すごい」

 図書館の蔵書を借りて読むだけですべて記憶できるのなら、書籍代が節約できて助かりますね。それでも私は、大好きな本は手元においておきたいですけれど。

「もちろん、自宅は違う。あの空間は、他者に対して『公爵らしさ』を誇示するべき場所だ。何をどう配置すれば効果的か、僕にだって理解できる。だから、自宅内にある僕の自室は『公爵令息らしい』と言えるだろう」

 なんだか難しい話になってきました。自室というのは、過ごしやすさが一番な気がするのですが……。

「とはいえ学園内ではその必要性はないから何も置かなかった。いっそ何もない部屋は、僕の特異性のアピールにさえなった」
「そう、ですか」

 少しだけ、ギディオンさまが寂しいかたのように思えました。ギディオンさまの考えの中には、どこにも「楽しい」が見当たらなかったからです。

 ギディオンさまの頭の中には、確かにたくさんのことが記憶されているのでしょう。けれどそれはギディオンさま以外のかたには見えないのに、どうやって思い出を共有することができるのでしょうか。

「だからこそ、物を捨てられない君に興味が湧いた。寮母さんがよく話してくれていたよ。物を大切にし過ぎて、自分の首を絞めている不器用な優等生がいるとね。物に執着しない僕とは正反対だと興味を持ったんだ」

 情報源はまさかの寮母さんでした! 心配してくださっているのはありがたいのですが、いろんなところで私生活をバラさないでください!

「大丈夫ですよ、そんなに気負わなくても。きっと自然に、ギディオンさまの大切なものは増えていきますから」
「瞳を輝かせる君を見ていたら、床に転がっているものも捨てようとは思えなくなったよ。僕が知らなかった世界をこれから教えてほしい。よろしく頼むよ、僕の奥さん」
「え、それは馬の前に吊るしたニンジンだったのでは?」
「君は一体いつから馬になったんだ。大体、僕を誘惑してくれるのだろう? いつになったらで誘ってくれるのか、これでも楽しみにしているんだ」

 えーと、これはつまり、本当に部屋が汚いお陰で好きなひとのお嫁さんになった……?

「ギディオンさま、ハッピーが過ぎます」

 冗談だと思っていたプロポーズが有効だったことを知り、私はあっさり卒倒したのでした。
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