玉砕するつもりで、憧れの公爵令息さまに告白したところ、承諾どころかそのまま求婚されてしまいました。

石河 翠

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 憧れのひとの前に広がる汚部屋の証。細々した紙の束に、布やリボンの切れ端。中身の入った大小各種の箱の数々。ぬいぐるみにカバン、シールにビーズまで。

 しかも詰め込んでいた場所がクローゼットだったせいで、中にあった本来殿方に見せるべきではないものまであふれでてしまっています。そう例えば、かのかたの頭上を彩る私の勝負下着のような。

「はわわわわ、違うんです。誤解なんです!」
「……これの一体何が誤解なのか、説明してもらおうか」
「はい、はい、もちろんです。でもその前に、を返していただいてもよろしいでしょうか」

 慌ててひったくり、私は壊れかけのクローゼットに顔を突っ込みました。うっかりさらなる雪崩を発生させないように、チェストの中に押し込みます。ああ、型崩れ防止なんて馬鹿なことを考えずにチェストに入れてさえおけば、なんとか誤魔化せたかもしれないのに!

 大丈夫、大丈夫。あれはただの布です。ただの布! わざと私が投げつけた訳ではないことを説明すれば、きっとわかっていただけるはずです。何より、新品未使用ですし!

「……黒の総レースか」
「うわーん、忘れてください!」

 やっぱり気になりますか。気になりますよね。私だって抜き打ちお部屋チェックに訪れた男子学生のお部屋で、頭の上にパンツが落ちてきたらちゃんと洗濯済みなのかどうか心配になります。だから、声を大にして言いたいのです。清潔ですよと。

 そもそもあれは、いつか公爵令息さまが卒業する前に「一夜のお情け」をおねだりするときに使おうと思っていた勝負下着だったんです。同じ高位貴族とはいえ、今をときめく公爵家の跡取り息子と、没落寸前の伯爵家の平凡娘の結婚なんてハナから無理に決まっていますが、私だって恋する乙女。少しくらい夢を見てもいいではありませんか。

 それなのにこんな部屋に住んでいることがバレた上、頭の上に下着が落ちてきたなんて、馬鹿馬鹿し過ぎて勃つものも勃たなくなってしまいます。それともそれはそれ、これはこれで、いやらしい雰囲気に流されてくださるのでしょうか。

 いや、この瞬間を思い出してしまうあの下着ではもはや勝負は仕掛けられませんね。ああ、お小遣いをせっせと貯めてやっと手が届いたのに。もう1セット揃えるなんて無理です……。

「つまりこの下着は、僕を誘惑するときに使うつもりではいたが、それは今日ではなく僕の卒業式の直前だったということか」
「ど、どうしてそれを!」
「さっきから、君は大声でひとりごとを言っている。もう少し慎みを持ちたまえ」
「まさかの自分で全部白状していただと!」
「……事前に聞いていた通りだな。真面目で成績も優秀だが、どこか抜けているところがある」

 すみません、それは一体誰から聞いていた情報でしょうか。よく私をわかっているので、情報源が気になります。いや、もう今さらそんなことはどうだっていいですね。

 汚部屋は見られるわ、胸に秘めた想いは知られるわ、散々です。恥の上塗りもここまでくれば立派なものでしょう。さあ、殺すなら一思いに殺してください!

「ずっと前から好きでした。付き合ってください!」
「はっ」 

 鼻で笑われましたよ!
 えーん、悲しい! でもそんな表情もイケメン、めっちゃ好き!

「付き合うなどまどろっこしい。今すぐ結婚しようではないか」
「……は?」

 すみません、瞬殺されたはずがプロポーズされたのですが、これは一体どういうことですか?
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