玉砕するつもりで、憧れの公爵令息さまに告白したところ、承諾どころかそのまま求婚されてしまいました。

石河 翠

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 その日、王立魔術学園の女子寮は阿鼻叫喚の騒ぎが起きていました。
 それというのも、年に数回行われる突発的な抜き打ち検査が実施される上に、その検査官は男子寮の寮長を務める公爵令息さまが行うことになっていたからです。

「ひどいです! どうして今回に限ってそんなイレギュラーなことをしたんですか! ああ、憧れの公爵令息さまにこの片付いていない女子力ゼロの部屋を見られたら、恥ずかしさで死んでしまうかもしれません!」
「ノーマ、あなたのように考えるひとがいるからこその処置です! まったく、罰則をつけようが、奉仕活動をさせようが、いつまで経ってもあなたの部屋は片付かないんですから」

 当然と言わんばかりに私を責め立てるのは寮母さん。正論が耳に痛いです。

 私が通っている王立の魔術学園では、自分のことはすべて自分でやらなければなりません。侍女や侍従を連れてくることはできないのです。ですので、うまく適応して部屋を実家通りに美しく保つことができるひともいれば、私のように荒れ果てる人間だって出てきてしまうのでした。

 ちなみに、男子寮の抜き打ち検査はやはり女子寮の寮長を務める公爵令嬢さまが行うそうです。部屋に変なものを置いている男子学生たちは、美少女に蔑まれたあげくトラウマを負ってしまうのではないかしら……。いや、むしろ変な性癖を開花させてこの年齢にして拗らせてしまう可能性も……。ああ、考えたくないです。

「だからって」
「ごちゃごちゃ言っている暇があるのなら、少しでも部屋を片付けていらっしゃい。まあたとえあなたの部屋が目も当てられない惨状であろうと彼が言いふらすことはないでしょうが、恥ずかしいと思う心があるのなら、どうにか取り繕ってごらんなさい」
「無理ですよお」
「本当に不思議ね。部屋の中があれだけごちゃごちゃしているのに、成績は優秀なんだから。頭の中は整理できているということかしら」
「うわーん」
「こら、ノーマ。廊下を走るんじゃありません。また減点しますよ!」

 泣きながら猛ダッシュで部屋に戻り、片付けを始めました。もちろん、普段から物があふれているこの部屋を今すぐどうにかできるとはとても思えません。そういうわけで、私は強硬手段に出ることにしました。

 そう、要は抜き打ちチェックさえクリアしてしまえばいいのです。今回の検査官は公爵令息さま。つまり、女性の衣服がしまわれているクローゼットの中まで漁ることはないでしょう。ですからそこに一旦すべてのものを詰め込んでしまえば、表面上は片付いて見えるはず。

 万が一クローゼットの中身を見られそうになったなら、「いやん、えっち。ダメです♡」と言えば誤魔化されていただけるに違いない……なんて甘いことを考えていたわけですが、そうは問屋が卸さなかったのです。

 やはり、ものには限度があったようでして。
 室内チェックを終えた公爵令息さまが、部屋を出ようとしたその時。中身の重量あるいは質量に耐えきれなかったクローゼットのドアが弾けとんでしまったのです。そして無理矢理詰め込んでいたクローゼットの中身が雪崩を起きたあげく、公爵令息さまに向かって勢いよく落ちてきてしまったのでした。
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