2 / 8
(2)
しおりを挟む
その日、王立魔術学園の女子寮は阿鼻叫喚の騒ぎが起きていました。
それというのも、年に数回行われる突発的な抜き打ち検査が実施される上に、その検査官は男子寮の寮長を務める公爵令息さまが行うことになっていたからです。
「ひどいです! どうして今回に限ってそんなイレギュラーなことをしたんですか! ああ、憧れの公爵令息さまにこの片付いていない女子力ゼロの部屋を見られたら、恥ずかしさで死んでしまうかもしれません!」
「ノーマ、あなたのように考えるひとがいるからこその処置です! まったく、罰則をつけようが、奉仕活動をさせようが、いつまで経ってもあなたの部屋は片付かないんですから」
当然と言わんばかりに私を責め立てるのは寮母さん。正論が耳に痛いです。
私が通っている王立の魔術学園では、自分のことはすべて自分でやらなければなりません。侍女や侍従を連れてくることはできないのです。ですので、うまく適応して部屋を実家通りに美しく保つことができるひともいれば、私のように荒れ果てる人間だって出てきてしまうのでした。
ちなみに、男子寮の抜き打ち検査はやはり女子寮の寮長を務める公爵令嬢さまが行うそうです。部屋に変なものを置いている男子学生たちは、美少女に蔑まれたあげくトラウマを負ってしまうのではないかしら……。いや、むしろ変な性癖を開花させてこの年齢にして拗らせてしまう可能性も……。ああ、考えたくないです。
「だからって」
「ごちゃごちゃ言っている暇があるのなら、少しでも部屋を片付けていらっしゃい。まあたとえあなたの部屋が目も当てられない惨状であろうと彼が言いふらすことはないでしょうが、恥ずかしいと思う心があるのなら、どうにか取り繕ってごらんなさい」
「無理ですよお」
「本当に不思議ね。部屋の中があれだけごちゃごちゃしているのに、成績は優秀なんだから。頭の中は整理できているということかしら」
「うわーん」
「こら、ノーマ。廊下を走るんじゃありません。また減点しますよ!」
泣きながら猛ダッシュで部屋に戻り、片付けを始めました。もちろん、普段から物があふれているこの部屋を今すぐどうにかできるとはとても思えません。そういうわけで、私は強硬手段に出ることにしました。
そう、要は抜き打ちチェックさえクリアしてしまえばいいのです。今回の検査官は公爵令息さま。つまり、女性の衣服がしまわれているクローゼットの中まで漁ることはないでしょう。ですからそこに一旦すべてのものを詰め込んでしまえば、表面上は片付いて見えるはず。
万が一クローゼットの中身を見られそうになったなら、「いやん、えっち。ダメです♡」と言えば誤魔化されていただけるに違いない……なんて甘いことを考えていたわけですが、そうは問屋が卸さなかったのです。
やはり、ものには限度があったようでして。
室内チェックを終えた公爵令息さまが、部屋を出ようとしたその時。中身の重量あるいは質量に耐えきれなかったクローゼットのドアが弾けとんでしまったのです。そして無理矢理詰め込んでいたクローゼットの中身が雪崩を起きたあげく、公爵令息さまに向かって勢いよく落ちてきてしまったのでした。
それというのも、年に数回行われる突発的な抜き打ち検査が実施される上に、その検査官は男子寮の寮長を務める公爵令息さまが行うことになっていたからです。
「ひどいです! どうして今回に限ってそんなイレギュラーなことをしたんですか! ああ、憧れの公爵令息さまにこの片付いていない女子力ゼロの部屋を見られたら、恥ずかしさで死んでしまうかもしれません!」
「ノーマ、あなたのように考えるひとがいるからこその処置です! まったく、罰則をつけようが、奉仕活動をさせようが、いつまで経ってもあなたの部屋は片付かないんですから」
当然と言わんばかりに私を責め立てるのは寮母さん。正論が耳に痛いです。
私が通っている王立の魔術学園では、自分のことはすべて自分でやらなければなりません。侍女や侍従を連れてくることはできないのです。ですので、うまく適応して部屋を実家通りに美しく保つことができるひともいれば、私のように荒れ果てる人間だって出てきてしまうのでした。
ちなみに、男子寮の抜き打ち検査はやはり女子寮の寮長を務める公爵令嬢さまが行うそうです。部屋に変なものを置いている男子学生たちは、美少女に蔑まれたあげくトラウマを負ってしまうのではないかしら……。いや、むしろ変な性癖を開花させてこの年齢にして拗らせてしまう可能性も……。ああ、考えたくないです。
「だからって」
「ごちゃごちゃ言っている暇があるのなら、少しでも部屋を片付けていらっしゃい。まあたとえあなたの部屋が目も当てられない惨状であろうと彼が言いふらすことはないでしょうが、恥ずかしいと思う心があるのなら、どうにか取り繕ってごらんなさい」
「無理ですよお」
「本当に不思議ね。部屋の中があれだけごちゃごちゃしているのに、成績は優秀なんだから。頭の中は整理できているということかしら」
「うわーん」
「こら、ノーマ。廊下を走るんじゃありません。また減点しますよ!」
泣きながら猛ダッシュで部屋に戻り、片付けを始めました。もちろん、普段から物があふれているこの部屋を今すぐどうにかできるとはとても思えません。そういうわけで、私は強硬手段に出ることにしました。
そう、要は抜き打ちチェックさえクリアしてしまえばいいのです。今回の検査官は公爵令息さま。つまり、女性の衣服がしまわれているクローゼットの中まで漁ることはないでしょう。ですからそこに一旦すべてのものを詰め込んでしまえば、表面上は片付いて見えるはず。
万が一クローゼットの中身を見られそうになったなら、「いやん、えっち。ダメです♡」と言えば誤魔化されていただけるに違いない……なんて甘いことを考えていたわけですが、そうは問屋が卸さなかったのです。
やはり、ものには限度があったようでして。
室内チェックを終えた公爵令息さまが、部屋を出ようとしたその時。中身の重量あるいは質量に耐えきれなかったクローゼットのドアが弾けとんでしまったのです。そして無理矢理詰め込んでいたクローゼットの中身が雪崩を起きたあげく、公爵令息さまに向かって勢いよく落ちてきてしまったのでした。
31
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします
皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。
完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

【完結】べつに平凡な令嬢……のはずなのに、なにかと殿下に可愛がれているんです
朝日みらい
恋愛
アシェリー・へーボンハスは平凡な公爵令嬢である。
取り立てて人目を惹く容姿でもないし……令嬢らしくちゃんと着飾っている、普通の令嬢の内の1人である。
フィリップ・デーニッツ王太子殿下に密かに憧れているが、会ったのは宴会の席であいさつした程度で、
王太子妃候補になれるほど家格は高くない。
本人も素敵な王太子殿下との恋を夢見るだけで、自分の立場はキチンと理解しているつもり。
だから、まさか王太子殿下に嫁ぐなんて夢にも思わず、王妃教育も怠けている。
そんなアシェリーが、宮廷内の貴重な蔵書をたくさん読めると、軽い気持ちで『次期王太子妃の婚約選考会』に参加してみたら、なんと王太子殿下に見初められ…。
王妃候補として王宮に住み始めたアシュリーの、まさかのアツアツの日々が始まる?!

モブなので思いっきり場外で暴れてみました
雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。
そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。
一応自衛はさせていただきますが悪しからず?
そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか?
※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。
【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」
まほりろ
恋愛
聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。
だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗
り換えた。
「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」
聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。
そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。
「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。
※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。
※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。
※二章はアルファポリス先行投稿です!
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます!
※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17
※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる