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ほどなくして、坊っちゃんのいる場所は見つかった。実はリスは嗅覚もいいのだ、ふふん。なんて自慢はさておいて、ぱっと天井裏から床に向かってダイブする。目指すは、坊っちゃんが部屋の隅に放置した毛布の中だ。ここでもふわふわしっぽが役に立つね!
「坊っちゃん、お疲れみたいですね!」
「おい、なんでここにきた!」
「リスになってきました!」
「違う!」
「ちょっと坊っちゃん、声が大きすぎます!」
ただでさえ、リスから人間に戻らないと意思疏通ができないのだから。看守に見つからないように、毛布をかぶって、じりじりと坊っちゃんに近づいた。
「おい、近づくな」
「ひどい。天井裏を駆け回ってきましたけれど、それほど汚れてはいませんよ。臭くもないですし!」
「だから、こっちに来るんじゃない! なんて破廉恥な!」
今さら? 昔、私の全裸を見ましたよね? はっ、まさか!
「そんな、女性嫌いだったんですか! だから、女遊びしてないんですね!」
「どうしてそうなる」
「いや、さっきですね。途中の廊下でぶっ倒れた筋肉ダルマの山を見つけたんですよ。だからてっきりそういうご趣味だったのかと。この短時間であれだけとは、お盛んですねえ」
「向こうから襲ってきたから、叩きのめしてやっただけだ」
「坊っちゃん、ぱっと見もやしっ子ですもんね」
魔術特性が高い坊っちゃんは、実は体術にも優れているのだけれど、普通の魔術師感覚で襲ってきたんだろうな。まあ、襲ってきたほうが悪いんだから、恨みっこなしでよろしく!
疲れたと言いたげに、坊っちゃんがため息をついた。はて?
「……お前は、危ない目にはあわなかったか」
「監獄の中はわりと平和でしたよ。意外と清潔に保たれていてびっくりです。むしろ、ここにたどり着く前に近くの木々の間を突っ切るほうがドキドキしましたね」
「ほほう?」
「今、繁殖期ですからね。野生のリスを魅了してしまったらどうしようかと心配していたんですけど、ヘビどころかリス一匹近づいてきませんでしたよ、この魅力あふれるもふもふボディが目に入らないなんて! きいいいいい」
「心配した俺がバカだった」
「それで、坊ちゃん。どうしてここに押し込められたんですか? 第二王子がどうとか聞こえましたが」
「生徒会の運営資金が消えていてな。つついたら、殿下に女がいることがわかった。ついでにその女を公妾にするために、俺に娶るように言ってきた。突っぱねた結果がこれだ」
「マジですか」
いや、クズかよ。
「出世のために喜んでやるやつもいるだろうが」
「坊っちゃんが引き受けるわけないですよねえ」
高位貴族には珍しいことに、坊っちゃんには婚約者がいない。そもそも女に興味がない。お目当ての女性の嫁ぎ先にちょうどよさそうに見えたのだろう。
って、どんだけ節穴だよ。妾も側室も持てないからこその公然の秘密ってやつが公妾だけど、ルール重視の坊っちゃんがうんって言うわけないじゃん。なんで坊っちゃんに頼んだよ。
やっぱり、横領したわけじゃなかった。もちろんわかってはいたけれど、改めて耳にしてほっと息を吐く。
坊っちゃんが公妾との結婚話を断ってくれて、ふわふわと胸の奥があったかくなっていることには、気がつかないふりをした。
「坊っちゃん、お疲れみたいですね!」
「おい、なんでここにきた!」
「リスになってきました!」
「違う!」
「ちょっと坊っちゃん、声が大きすぎます!」
ただでさえ、リスから人間に戻らないと意思疏通ができないのだから。看守に見つからないように、毛布をかぶって、じりじりと坊っちゃんに近づいた。
「おい、近づくな」
「ひどい。天井裏を駆け回ってきましたけれど、それほど汚れてはいませんよ。臭くもないですし!」
「だから、こっちに来るんじゃない! なんて破廉恥な!」
今さら? 昔、私の全裸を見ましたよね? はっ、まさか!
「そんな、女性嫌いだったんですか! だから、女遊びしてないんですね!」
「どうしてそうなる」
「いや、さっきですね。途中の廊下でぶっ倒れた筋肉ダルマの山を見つけたんですよ。だからてっきりそういうご趣味だったのかと。この短時間であれだけとは、お盛んですねえ」
「向こうから襲ってきたから、叩きのめしてやっただけだ」
「坊っちゃん、ぱっと見もやしっ子ですもんね」
魔術特性が高い坊っちゃんは、実は体術にも優れているのだけれど、普通の魔術師感覚で襲ってきたんだろうな。まあ、襲ってきたほうが悪いんだから、恨みっこなしでよろしく!
疲れたと言いたげに、坊っちゃんがため息をついた。はて?
「……お前は、危ない目にはあわなかったか」
「監獄の中はわりと平和でしたよ。意外と清潔に保たれていてびっくりです。むしろ、ここにたどり着く前に近くの木々の間を突っ切るほうがドキドキしましたね」
「ほほう?」
「今、繁殖期ですからね。野生のリスを魅了してしまったらどうしようかと心配していたんですけど、ヘビどころかリス一匹近づいてきませんでしたよ、この魅力あふれるもふもふボディが目に入らないなんて! きいいいいい」
「心配した俺がバカだった」
「それで、坊ちゃん。どうしてここに押し込められたんですか? 第二王子がどうとか聞こえましたが」
「生徒会の運営資金が消えていてな。つついたら、殿下に女がいることがわかった。ついでにその女を公妾にするために、俺に娶るように言ってきた。突っぱねた結果がこれだ」
「マジですか」
いや、クズかよ。
「出世のために喜んでやるやつもいるだろうが」
「坊っちゃんが引き受けるわけないですよねえ」
高位貴族には珍しいことに、坊っちゃんには婚約者がいない。そもそも女に興味がない。お目当ての女性の嫁ぎ先にちょうどよさそうに見えたのだろう。
って、どんだけ節穴だよ。妾も側室も持てないからこその公然の秘密ってやつが公妾だけど、ルール重視の坊っちゃんがうんって言うわけないじゃん。なんで坊っちゃんに頼んだよ。
やっぱり、横領したわけじゃなかった。もちろんわかってはいたけれど、改めて耳にしてほっと息を吐く。
坊っちゃんが公妾との結婚話を断ってくれて、ふわふわと胸の奥があったかくなっていることには、気がつかないふりをした。
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