旦那さまが欲しければかかっていらっしゃい。愛人だろうが、妾だろうが全力でお相手してあげますわ。

石河 翠

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(21)夫の親友は今も私が好きらしい-4

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「聞きたいこと、たくさんありますわよね」
「え、あの、うん、でも、ベスが話したくなければ僕は……」
「あら、聞いてくださいませんの?」

 ちょっと拗ねたように頬を膨らませてみせる。そう、私は極上の美女。あざといポーズが似合う女。だいたい、先ほどまでの私とゴkbリー卿の会話を断片的に繋ぎ合わせて妄想を膨らまされるほうが嫌だ。誤解が生じる余地がないくらいしっかり、一から十まで事実確認を行わせてほしい。

「聞いてもいいの?」
「聞いてほしいのです。ゴkbリー卿とのことを勘違いされては困りますもの。それに時間ならたくさんありますわ。寝物語のように少しずつお話するのもよいかもしれません」
「でも、君とゴドフリーの話ばかり寝る前に聞かされたら、僕、変になっちゃうかも」
「まあ、確かにそれは情操教育的によろしくありませんわね。とはいえ、夢のような遠い世界のお話ですから」

 この世界とは異なる場所の話。けれど、夫なら否定することなく全部聞いてくれるだろう。目を丸くする夫の姿がすぐに思い浮かんでつい吹き出しそうになった。

 まあ信じてくれなくても、私の実家が成り上がった秘密を夫に教えるわけなのだから、これからの未来は一蓮托生である。

「あ、先に言っておきますが、この世界において私が身を捧げたのはザカリヤさまだけですから。そこだけは、絶対に信じてくださいませ」
「ふえっ、あのっ、ひゃい!」

 恥ずかしそうに身もだえする夫。あらもう、いつまで経っても乙女のように初々しいのだから。好き。

「ザカリヤさま、それではもうここに用はありませんよね? 私はこれからもザカリヤさまと仲良し夫婦でいるつもりなのですから」
「え、あ、あの、ベス?」
「あら、どうなさいました?」
「僕の名前、どうして……」
「だってザカリヤさまはお名前呼びの方がお好きなのでしょう? 私としては『旦那さま呼び』のエロティックさはなかなかに捨てがたいものがあるのですけれど、名前というものは私がどう呼びたいかではなく、ご本人であるザカリヤさまがどう呼ばれたいかということが大事ですものね?」

 ゴkbリー卿と私の話を聞いていた夫は、私が頑なに名前を呼ばなかった理由に気づいてしまっただろうか。でも夫は優しいひとだから、私が胸に抱えていたもやもやを伝えたら自分の気持ちを抑え込んでしまうだろう。名前を呼んでほしいと彼が思ったのなら、私はその願いを叶えてあげたい。

 月をとってくれとねだられるような無理難題ではない。ただ私が自分の恐れを捨てられたなら、すぐにでも叶えてあげられるささやかなおねだり。私に出会う前はじっと引きこもってひとりで過ごしていた夫が見せてくれる我儘が愛しくてたまらない。可愛い夫が願うなら、月だってどうにかしてとってきてあげたいと思うのは妻として当たり前のことだと思う。

「ザカリヤさま、あなたは私のものよ」

 いったん口に出してしまえば、どうして今まで頑なに拒んできたのだろうと不思議に思ってしまうほど、とても馴染みのある名前。

「名前、嬉しい」
「ザカリヤさま、名前くらい声が枯れるまで呼んで差し上げます。ただし、ばちばちに束縛されることは覚悟の上ですわよね?」
「そ、そくばく?」
「そうですわ。せっかく、私がザカリヤさまの自由を制限しないように、あれでもぐっと我慢しておりましたのに」

 夫がどこまで理解しているかわからないが、私の愛はねっとりとしつこく重い。名前を読んだら、もう手放してあげられない。愛人だって妾だって私は絶対に認めないだろう。本当ならそれを先に説明してあげるべきだったのかもしれないけれど、何も知らない夫はどこか嬉しそうにもじもじしている。

「僕、ベスにそんな風に想ってもらえるのって嬉しいかも」
「あら、束縛されて喜ぶなんてとんだ悪い子ですこと。いけないわ。おしおきしてあげなくちゃ」
「え」

 即座に転移陣を起動させて、夫の首にしがみつく。景色が切り替わるとそのまま、夫の首筋をきつく吸い上げた。大切な物には、なくさないように目印をつけておかなくちゃ。他の誰かと共有することはできないし、譲り渡すなんてとんでもない。うっすらとついた赤い痕を指で撫でていると、にんまりと口角が上がってしまう。

「べべべ、ベス!」
「私がザカリヤさまを束縛したいように、ザカリヤさまも私に執着してくれますか?」
「とっくの昔に、ベスのことしか目に入ってないよ」

 恥ずかしそうに頬を赤らめるうちの夫はやっぱりとっても可愛い。ちょっとムラムラ……もといドキドキしたので耳を甘噛みしてみる。涙目で私の攻撃に必死に耐える夫は最高にキュートだった。
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