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 自慢じゃありませんが、私の婚約者であるヴィンセントさまはイケメンです。美形で運動神経もよく、才能が溢れた宮廷魔道士でお金持ちの名門貴族。

 一方の私はというと、貧乏伯爵家の長女で歴史だけはあるという状態です。歴史だけはあるというか、歴史しかありません。娘の持参金も用意できないくらいですものね。

 史上まれに見る優良物件をあてがわれて、何が不満なのかと言う方もいらっしゃることでしょう。ですが、考えてもみてください。何もかも完璧な男の隣で微笑んでいられるのは、超絶美女か生粋のお馬鹿さんくらいなもの。一般人にはハードルが高過ぎるのです。

 しかも私は、一般人ですらありません。まだ年頃だというのになこの髪は、「魔力なし」と蔑まれるものなのです。この世界では、髪色は自身の魔力を示すもの。色が濃く鮮やかであればあるほど尊ばれます。それこそ美しい髪色、つまりはより豊かな魔力さえ持ち合わせていれば、平民であっても出世の道が開かれるほど。

 正直なところ、この世界において私は無価値なのです。両親は私のことを愛してくれていますが、それはただ血の繋がりゆえのこと。とはいえ、他の家で魔力なしの子どもが生まれたら、産声を上げてすぐにくびりころされていたはずですから、両親のもとに生まれ落ちたことは私の人生の中で最大の幸運だったのでしょう。

 それなのにあの方ときたら。

「僕の運命のひと。白雪よりも白く純粋なその髪に愛を誓おう」

 歯の浮くような台詞で、彼は私に求婚してきたのです。会うたびに繰り返されるのは、教本を丸覚えしたかのような誰にでも使える薄っぺらい言葉ばかり。もちろんデートのお誘いなんてありません。きっとこれは何らかの思惑を持つ政略結婚。

 初夜のときには、「お前を愛することはない」などと言われて、捨て置かれるのでしょう。読書家の私、そういう話には詳しいのです!

 望んでもいない玉の輿に伴う淑女教育と周囲からのやっかみにより、ストレスは溜まっていくばかり。疲れを我慢しているだけで、機嫌が悪い、怒っていると婚約者に遠巻きにされる始末。あげく、気晴らしに出かけた下町で、こんなことになるなんて。

 けれど、今回の件はチャンスとも言えるはずです。証拠を確保すれば相手側の有責で婚約解消できるはず。さらにうまくいけば、がっぽり慰謝料をもらって自由気ままな独身生活を送ることも夢ではありません!

 ヴィンセントさまのお望み通り、その場限りのデートを満喫してやろうではありませんか!
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