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「まさか、サンディ?」
「ようやっと思い出してくれたようだね?」
「忘れたことなんてなかったです。私を裏切って、ひとりぼっちにした嫌なひと」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、カレンは魔王に抱き着いた。
「ついうっかり、君の住む異国に島流しをされる形で封印されていてね。魔力のない世界では、魔王として存在することすらできずに、悪霊として正気を失うはずだったんだ。それを救ってくれたのは、君だ」
「私?」
「君は、自分の生命力を魔力に変えてわたしに捧げてくれた。まっすぐな愛を与えてくれた。わたしの声が君に届いていないことは知っていたけれど、わたしは毎日、君に感謝の言葉を捧げていたんだ」
「感謝の言葉より、愛の言葉が欲しいです」
「そのつもりだったさ。だから、君が死んだらこちらの世界に来るように印をつけた。けれどわたしが君を見つけたときには、君にはすでに婚約者がいた。前世の君の相手と同じ魂を持つ男だ。どうやら君が死んだすぐ後に、あの男も死んでいたらしい。彼は愚か者だ。前世で失敗をしたというのに、同じ間違いをするまで過ちに気が付かない」
「どういうことですか」
「君が知る必要のない話だ」
大きな奇妙な人影だった頃は、楽しく過ごしていたけれど、別れの気配に怯えていた。声も届かず、気持ちも勝手に推測することしかできなかった。けれど、今は違う。手を伸ばせば、温度があり、言葉がある。何よりも、自分を見る目が雄弁に物事を語っていた。
「もっと早く、私を求めてくださればよかったのに」
「君が彼と幸せそうなら、手を出すつもりはなかったんだ。代わりに魔王としてせっせと働けばいいと思っていたんだよ。君が呼んでくれた名前はそのまま、サンディ……アレクサンダーとしてね」
「……そう、だったのですね」
かつての人影とはまったく姿形が異なるのに、彼女が求めていた愛を彼はあふれんばかりに与えてくれる。自分が悪役になったとしても、カレンが幸せならば満足だと微笑んだままで。底が割れたコップのように、カレンはきっとどれだけ愛情をもらっても安心できない。そんな彼女に愛をくれるサンディのことを、今度こそカレンは離さないだろう。魔力の刃で切り裂かれていたはずの肌は、魔王に舌でぬぐわれるとあっという間に滑らかさを取り戻した。
「そういえば、どうしてサンディと名付けてくれたんだい。あの国は、横文字が一般的な場所ではなかっただろう?」
「ふふふ、内緒です」
まさかここで、悪霊といえば井戸の底から出てくる髪の長い例の彼女だから、男性でかつ西洋風にアレンジしただけとは答えられなかったカレンは、にっこりととびきりの笑顔で質問を黙殺した。華恋と暮らすうちに、ゲーム知識もすっかり蓄えてしまった魔王である。名前の由来も最初からわかっているような気がしないでもないが、やはり言わぬが花だということもあるだろう。
「ようやっと思い出してくれたようだね?」
「忘れたことなんてなかったです。私を裏切って、ひとりぼっちにした嫌なひと」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、カレンは魔王に抱き着いた。
「ついうっかり、君の住む異国に島流しをされる形で封印されていてね。魔力のない世界では、魔王として存在することすらできずに、悪霊として正気を失うはずだったんだ。それを救ってくれたのは、君だ」
「私?」
「君は、自分の生命力を魔力に変えてわたしに捧げてくれた。まっすぐな愛を与えてくれた。わたしの声が君に届いていないことは知っていたけれど、わたしは毎日、君に感謝の言葉を捧げていたんだ」
「感謝の言葉より、愛の言葉が欲しいです」
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「どういうことですか」
「君が知る必要のない話だ」
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「もっと早く、私を求めてくださればよかったのに」
「君が彼と幸せそうなら、手を出すつもりはなかったんだ。代わりに魔王としてせっせと働けばいいと思っていたんだよ。君が呼んでくれた名前はそのまま、サンディ……アレクサンダーとしてね」
「……そう、だったのですね」
かつての人影とはまったく姿形が異なるのに、彼女が求めていた愛を彼はあふれんばかりに与えてくれる。自分が悪役になったとしても、カレンが幸せならば満足だと微笑んだままで。底が割れたコップのように、カレンはきっとどれだけ愛情をもらっても安心できない。そんな彼女に愛をくれるサンディのことを、今度こそカレンは離さないだろう。魔力の刃で切り裂かれていたはずの肌は、魔王に舌でぬぐわれるとあっという間に滑らかさを取り戻した。
「そういえば、どうしてサンディと名付けてくれたんだい。あの国は、横文字が一般的な場所ではなかっただろう?」
「ふふふ、内緒です」
まさかここで、悪霊といえば井戸の底から出てくる髪の長い例の彼女だから、男性でかつ西洋風にアレンジしただけとは答えられなかったカレンは、にっこりととびきりの笑顔で質問を黙殺した。華恋と暮らすうちに、ゲーム知識もすっかり蓄えてしまった魔王である。名前の由来も最初からわかっているような気がしないでもないが、やはり言わぬが花だということもあるだろう。
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