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ハリエットとエミリーは、同い年の従姉妹同士だ。真面目なだけが取り柄のハリエットとは異なり、エミリーはその天使もかくやと言わんばかりの容姿でみんなを魅了してきた。
これだけ聞くと、ぱっとしないハリエットと可愛らしいエミリーは仲が悪いと思われるかもしれない。実際、そういう関係だと思ってハリエットをバカにしてくるひとたちもいる。
しかし実際のところ、ハリエットとエミリーは唯一無二の親友同士だった。
それというのも、ハリエットとエミリーの母親同士の仲が信じられないくらいに悪かったからだ。姉妹として一緒に暮らしている時からすでに反りが合わなかったらしいが、お互いに結婚して家を出てからはますますその仲の悪さが顕著になっていった。
『ハリエット。このダンス、エミリーはもうマスターしたそうよ。どうしてあなたは、ちゃんとできないの?』
『ハリエット、ピアノくらいもっと弾けるようにならなくちゃ。あなたはエミリーみたいに美人じゃないのだから。これくらいできなくてどうやって生きていくの?』
ハリエットが母親にそう叱咤されれば、同じようにエミリーは母親に激励される。
『エミリー、よくお聞きなさい。世の中は、可愛らしい顔をしていれば渡っていけるほど甘くはないのよ。顔だけのつまらない女だなんて思われないように、しっかりと教養を身につけなければ』
『エミリー、女の子は可愛くて当たり前なの。そこからどう付加価値をつけていくかが大事なのよ。ハリエットなんかに負けてはダメよ』
透けて見えるのは、子どもへの愛情ではなく、母親同士の見栄の張り合い。
何をやっても比較される。褒め言葉さえ、相手を貶めるために使われる。それはハリエットとエミリーを知らず知らずの間に消耗させた。
『このままではエミリーに負けてしまうわ!』
『ハリエットに追い抜かされてもいいの?』
自分たち自身が比較され競わされ続け、その結果姉妹の仲が破綻したハリエットとエミリーの母親たち。それだというのに彼女たちは、同様の競争を自身の娘たちに強要することのおかしさを理解しようとはしない。
その癖母親たちは、人前でだけは仲のよい姉妹を装い、お互いの一人娘であるハリエットとエミリーたちまで姉妹のように扱ってくる。その落差と狂気にハリエットたちはすっかりついていけずにいた。
『ねえ、エミリー。あなたは私のこと嫌い?』
『そんなことないよ。ハリエットはお母さまと違って、ダンスや刺繍の出来を見て怒り続けたりしないでしょ。ハリエットは?』
『私もエミリーのこと、好きよ。エミリーがいなかったら、耐えられなかったわ。好きな本を読んでも紅茶を飲んでも、それが終われば評論会。頭がぱんぱんで全然楽しくない』
『わたしがいなかったら、そもそも比べられずに済んだのに?』
『それを言うなら私も同じでしょ。きっとまた別の誰かと比べられていたわよ』
結果的にハリエットとエミリーは、神経質な母親を持つもの同士、息苦しい生活の中での同志として支え合ってきたのだった。
(どうしてエミリーは、私の好きなひとを盗ったなんて嘘をついたのかしら?)
しかもわざわざエミリーの母親をお茶会で同席させた上で、それをハリエットに報告するなんて。大切なことを伝えるときは、場を引っかき回す母親は同席させない。それは昔からのハリエットたちの決まりごと。それならば一体これはどんな茶番なのだろう。
これだけ聞くと、ぱっとしないハリエットと可愛らしいエミリーは仲が悪いと思われるかもしれない。実際、そういう関係だと思ってハリエットをバカにしてくるひとたちもいる。
しかし実際のところ、ハリエットとエミリーは唯一無二の親友同士だった。
それというのも、ハリエットとエミリーの母親同士の仲が信じられないくらいに悪かったからだ。姉妹として一緒に暮らしている時からすでに反りが合わなかったらしいが、お互いに結婚して家を出てからはますますその仲の悪さが顕著になっていった。
『ハリエット。このダンス、エミリーはもうマスターしたそうよ。どうしてあなたは、ちゃんとできないの?』
『ハリエット、ピアノくらいもっと弾けるようにならなくちゃ。あなたはエミリーみたいに美人じゃないのだから。これくらいできなくてどうやって生きていくの?』
ハリエットが母親にそう叱咤されれば、同じようにエミリーは母親に激励される。
『エミリー、よくお聞きなさい。世の中は、可愛らしい顔をしていれば渡っていけるほど甘くはないのよ。顔だけのつまらない女だなんて思われないように、しっかりと教養を身につけなければ』
『エミリー、女の子は可愛くて当たり前なの。そこからどう付加価値をつけていくかが大事なのよ。ハリエットなんかに負けてはダメよ』
透けて見えるのは、子どもへの愛情ではなく、母親同士の見栄の張り合い。
何をやっても比較される。褒め言葉さえ、相手を貶めるために使われる。それはハリエットとエミリーを知らず知らずの間に消耗させた。
『このままではエミリーに負けてしまうわ!』
『ハリエットに追い抜かされてもいいの?』
自分たち自身が比較され競わされ続け、その結果姉妹の仲が破綻したハリエットとエミリーの母親たち。それだというのに彼女たちは、同様の競争を自身の娘たちに強要することのおかしさを理解しようとはしない。
その癖母親たちは、人前でだけは仲のよい姉妹を装い、お互いの一人娘であるハリエットとエミリーたちまで姉妹のように扱ってくる。その落差と狂気にハリエットたちはすっかりついていけずにいた。
『ねえ、エミリー。あなたは私のこと嫌い?』
『そんなことないよ。ハリエットはお母さまと違って、ダンスや刺繍の出来を見て怒り続けたりしないでしょ。ハリエットは?』
『私もエミリーのこと、好きよ。エミリーがいなかったら、耐えられなかったわ。好きな本を読んでも紅茶を飲んでも、それが終われば評論会。頭がぱんぱんで全然楽しくない』
『わたしがいなかったら、そもそも比べられずに済んだのに?』
『それを言うなら私も同じでしょ。きっとまた別の誰かと比べられていたわよ』
結果的にハリエットとエミリーは、神経質な母親を持つもの同士、息苦しい生活の中での同志として支え合ってきたのだった。
(どうしてエミリーは、私の好きなひとを盗ったなんて嘘をついたのかしら?)
しかもわざわざエミリーの母親をお茶会で同席させた上で、それをハリエットに報告するなんて。大切なことを伝えるときは、場を引っかき回す母親は同席させない。それは昔からのハリエットたちの決まりごと。それならば一体これはどんな茶番なのだろう。
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