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「もしも君が婚約を解消する前に、俺が婚約者を見つけていたり、結婚していたりしていたらどうするつもりだったんだ」
「そもそもカルロに来ていた縁談は、すべてこちらが手を回して叩きつぶしておりましたわ! ちょっと容姿の良い男性や、財力のある男性を紹介するだけで譲ってくださる方ばかりでしたから本当に助かりました」
「おい」
「カルロは気づいていませんでしたけれど、意外と女性からの人気が高かったのですよ。子どもの私はもう心配で仕方がなかったのです!」

 嫉妬をちらりと滲ませて、アンジェラは組んでいたカルロの腕に自身の豊満な胸元を押し当てた。柔らかな肢体に触れてしまったと焦るカルロだが、アンジェラの拘束は解けそうにない。

「アンジェラ、密着しすぎている。寒いなら羽織るものを持ってこさせるから、離れなさい」
「あら、私はわざと押し当てているんですけれど?」
「君のことを大事にしたいんだ」
「大事にしたいのならなおさら、早めに美味しく召し上がってくださいませ」
「せめて結婚してからだ」
「もたもたしていては傷んでしまいますわ」
「だから、俺を茂みに連れ込もうとするんじゃない!」
「ふふふふ、そんな生娘のような反応をなさって。可愛らしくて、襲ってしまいたくなりますわ」
「ふざけるな。男は君が考えるよりずっと危険な生き物なんだぞ」
「あら、私、辺境伯領で剣と魔術の修行も行っておりますのよ。私が嫌だと思う行動は、カルロさまであってもとらせませんわ」
「……まさか親父とお袋の修行に耐えたのか?」
「ええ。おふたりから、お墨付きをいただきましたので、どうぞご安心くださいまし」

 カルロが王都で商会の仕事に勤しんでいる間、アンジェラは男装をした状態で修業に励んでいたのだという。日頃から公爵家にてみっちり鍛錬を積んでいたこともあり、何の問題も起きなかったのだとか。それを聞いてカルロが頭を抱えた。

「正直、心配しかない」
「大丈夫です。私が、きっとカルロを幸せにしてみせますから」
「その台詞は俺が言うべきものではないのか」
「あら、男女どちらが言っても良いものではありませんこと? だって、カルロに出会わなければ、私がこうやって強くなることもありませんでしたもの」
「それでも、俺なんかよりずっと君にふさわしい男はいるはずで」
「では、このように考えてはいかがでしょう? 私を支えてくれたのはカルロ。あなたがいてこその私。だから私の強さは、すなわちカルロの強さでもあるのです」

 カルロに出会わなければ、きっと自分がこんな風に笑って生きる未来は訪れなかった。王子と聖女を恨みながら、日陰の妃としてひとり寂しく過ごしていたに違いないのだ。

 どんな時でも、自分が立ち上がれば未来を切り開くことができるのだと知ったのはカルロに出会ったから。扱いづらい公爵令嬢ではなく、ただの子どもとして優しくしもらえたから、世界の見え方が変わったのだ。

 きっとカルロにとっては当たり前のことだったのだろうけれど、守られるべき子どもとしてたっぷりと愛情を注いでもらえた。それは男女間の愛とはまったく性質の異なるものだったけれど、やせ細り枯れかけていたアンジェラの根っこを生き返らせるには十分なものだった。カルロがいたから、アンジェラはこの世界に根を張り、しっかりと生きていきたいと立ち上がれたのだ。そして周囲から注がれていた愛情だって、ちゃんと受け止め直すことができたのた。

 アンジェラにとって、カルロは父のように安心でき、兄のように優しく、そして初めて知る憧れの存在だった。そんなアンジェラにとっての光に釣り合うように努力したのだ。カルロ自身にだって、「自分なんか」とは絶対に言わせない。密かに決意したアンジェラが、突然つり目がちな目元を柔らかく緩ませた。

「まあ、ちょうど良いところに宿り木が」
「寄生植物が好きなのか?」
「雰囲気の欠片もない台詞ですこと。商会を担っていく立場で宿り木の花言葉ではなく、学術的な部分を持ち出してくるなんて本当にお馬鹿さんね。でもそこがカルロらしくて、私は大好きですの」

 冬至祭にはまだ早い。宿り木の下で口づけをしても、永遠の愛と幸福を得ることができるのか。それは神のみぞ知るだ。けれど、アンジェラは知っている。どんなに難しいことであっても、諦めずに立ち向かわなくては夢を叶える機会さえ得られないことを。

「カルロ、愛しているわ」

 アンジェラはとびきりの笑顔でカルロに首元に腕を回して引き寄せた。
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