レンタル悪女を始めましたが、悪女どころか本物の婚約者のように連れ回されています。一生独占契約、それってもしかして「結婚」っていいませんか?

石河 翠

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「あなた、一体なんのつもりでギルバートさまの横にいるの?」
「ただ、声をかけていただいたまでです」

 あくまで『レンタル悪女』の契約によるものですからね。

「まあ、なんて生意気な。どうせ家庭教師として妹君を取り込んだのでしょうけれど、本気でギルバートさまの婚約者になれるとでも思っているのかしら」
「もちろん無理だと思います。だからと言ってわたしが選ばれないことと、あなたがたが選ばれることに関係があるのですか?」
「何よ、クララのくせに!」

 今までのわたしなら絶対に言わなかったことなのに。お酒のせいで、ついつい口がすべってしまいました。自分の気持ちに素直になってしまうとは、やはりお酒とは怖い飲み物です。

 そんな自分の行動がどうしようもなくおかしくて、笑いをこらえていると、ぱしゃりと何かが頭の上から降り注ぎました。みるみるうちに酔いがさめていきます。

「笑っていられるのも今のうちよ。どうせ泣きべそをかくことになるんだから」
「……ええ、わかっております」

 ギルバートさまとわたしは、あくまでレンタル契約に基づくもの。期限がきたら、それで終わりなのです。

 こんなときこそ、悪女というものは相手に憎まれ口を叩くものなのでしょう。ワインを頭からかけられて、泣きたい気持ちになってしまったわたしには、やっぱり悪女は荷が重そうです。

「私の隣に誰がふさわしいかなど、私自身が決めることだ」

 涼やかな声が響きわたりました。さっとひとの波が割れていきます。

「あなたがたは、クララ嬢の何を知っている。彼女がいかに誠実でまっすぐなひとか、私以上に知っている人間がどこにいるというのだ」
「ですが、貴族籍から追い出されたクララで良いというのなら、誰だって同じではありませんか!」

 義姉の悲鳴じみた叫びを、ギルバートさまは一蹴する。

「何が同じなものか。そもそもクララを苦しめた人間の近くにいたいと思うほうがどうかしている」

 崩れ落ちる人影には目もくれず、ギルバートさまがわたしの前にひざまずきました。

「私の隣は今も、これから先もクララだけのものだ。クララ、私のわがままをどうか許してくれるかい?」

 今もこれからもって、まさか一生? 生涯独占契約ということはつまり……。いや、これって契約結婚? それとも本気で恋をした? 一体どう解釈したらいいの?

 脳内が沸騰し、限界をこえたわたしは、そのまま意識を手放してしまいました。
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