レンタル悪女を始めましたが、悪女どころか本物の婚約者のように連れ回されています。一生独占契約、それってもしかして「結婚」っていいませんか?

石河 翠

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 そうして、ようやく夜会の日がやってきました。夜会が王宮で開かれるものだなんて、聞いてないんですけど?

 ギルバートさまのエスコートは丁重で、まるで私が愛する婚約者であるかのよう。

 はじめはわたしのことを物珍しそうに見ていた貴族の皆さまも、ギルバートさまが私を紹介してくださるたびに、得心がいったかのように微笑んでくださいます。

 これで、次回のお客さまをゲットするための顔繋ぎはバッチリということなのでしょうか?

 ほっとしたのもつかの間、気がつくとわたしたちは話題の中心になってしまっていました。

「ギルバートさま自ら、ドレスを選ばれたのだとか。愛されていらっしゃる」
「宝飾店でのやりとり、羨ましいですわ。ああ、今日身につけていらっしゃるのが、そのときの?」
「レストランでの甘い会話、ちまたでは理想の恋人同士のものだと言われておりますのよ」

 待ってください。なんだか噂に尾ひれがついて大変なことになっていませんか?

 緊張してギルバートさまの腕を握りしめれば、優しく引き寄せられました。

「申し訳ありません。彼女が少し疲れてしまったようで。失礼」

 わざわざ壁際の椅子のところまで、避難させてくださるなんて。社交をこなしてこその「レンタル悪女」だというのに、この体たらく。けれど、演技であることを忘れてギルバートさまの優しさに甘えたくなってしまうのです。

「クララ嬢、少し顔が赤いようだが……」
「先ほど果実水をいただいたのですが、それから頭がふわふわしてしまって……」
「それは酒だ……」

『悪女たるもの、酒は飲んでも飲まれるな』

 そう考えているのに、わたしの体はしゃきっとしてくれません。素直にギルバートさまに頼ることができたのも、お酒の力なのかもしれません。

「水を取ってこよう。クララ嬢は、ここで休んでいるように」

 ギルバートさまが離れるとすぐに、香水のきつい女性陣に取り囲まれました。その中には、わたしの腹違いの姉の姿もあります。
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