レンタル悪女を始めましたが、悪女どころか本物の婚約者のように連れ回されています。一生独占契約、それってもしかして「結婚」っていいませんか?

石河 翠

文字の大きさ
上 下
6 / 9

(6)

しおりを挟む
 連れてこられたところは、王都でも有名な高級レストランでした。席についたところではたと気がつきました。先ほどまでいらっしゃった妹君のお姿が見えません!

「ああ妹なら、『お兄さま、がんばってね!』と言って侍従と店を出ていったよ」

 天然の天使は、小悪魔でした。

「あんなお小さい妹君を騙しているなんて、胸が痛みます」
「いや彼女は……」
「彼女は?」
「なんでもない。こちらの話だ」

 ギルバートさまとふたりきりの空間は、居心地の悪いものではありません。むしろ、無理に話さなくても心地よい雰囲気だからこそ、一緒にいることが心苦しくなります。わたしたちの関係は友人同士ですらないというのに、甘い空気が漂っているような気がしてしまうからです。

「あなたに家庭教師をお願いしていて、本当によかった。あんなに生き生きとした妹を見るのは久しぶりだよ」
「ありがとうございます」
「家庭教師を頼むつもりが、同時にあなたにパートナーとしての役割を求めてしまうことになるなんて、あの頃は想像もしていなかったが」
「すみません」
「出会ってまだ3ヶ月も経っていないというのに、隣にいることが当たり前になっている。なんだか不思議な気分だ」
「ギルバートさま……」

 店内のいたるところから、控えめながら視線を感じます。これは、お礼をわたしに伝えつつも、『レンタル悪女』的な演技を求められているということでしょうか。

 『レンタル悪女』として、わたしはお相手を楽しませなければならないはずなのに、今日もギルバートさまに甘やかされています。

「クララ嬢は、どこへ行っても楽しそうにしている。こんな笑顔を毎日見られるのだから、あなたを選んで本当によかった」

 最初の頃のしかめっ面がどこかに消し飛んだかのような輝く笑顔に、思わず心臓が撃ち抜かれてしまいました。

 悪女をよろめかせるギルバートさまこそ、悪女なのでは?
 え、悪女の男性版ってなんて言うんでしょう。悪男?

「わたしも、ギルバートさまたちと一緒にいられて本当に幸せです」

 お酒にお強いはずのギルバートさまのお顔は、少しだけ赤くなっているように見えました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

予知姫と年下婚約者

チャーコ
恋愛
未来予知の夢、予知夢を視る女の子のお話です。下がってしまった未来予知の的中率を上げる為、五歳年下の美少年と婚約します。 本編と特別編の間に、番外編の別視点を入れました。また「予知姫と年下婚約者 小話集」も閑話として投稿しました。そちらをお読みいただきますと、他の視点からお話がわかると思いますので、どうぞよろしくお願いします。 ※他サイトにも掲載しています。 ※表紙絵はあっきコタロウさんに描いていただきました。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

かつて聖女だった森の魔女は、今日も誰かの恋バナで盛り上がっている。~復讐なんて、興味ありません。激甘な恋バナこそ至高なのです!~

石河 翠
恋愛
かつて聖女だった主人公は、今は森の魔女としてひそやかに暮らしている。彼女が三度の食事よりも楽しみにしているのは、他人の恋バナ。仕事の依頼を受けるかどうかも、相手が自分好みの恋バナを語れるかで判断する始末だ。 恋バナ以上に彼女が大切にしているのは、ぬいぐるみのヒューバート。実は、ヒューバートにはとある秘密があったのだ。そんな主人公のもとにある日、助けてほしいと少年が泣きついてきて……。 主人公の幸せのためなら死んでもかまわない男と、本当に愛しているなら泥水をすすってでも生き残ってほしいと思っている主人公の恋のお話。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、あっきコタロウさまのフリーイラストをお借りしています。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

【完結】喧嘩ばかりしていた幼なじみの冒険者が、婚約破棄をしてきたそうで

真辺わ人
恋愛
冒険者のケンカップル未満が、一緒にドラゴン倒したり、襲撃者撃退したりするお話。 脳筋女子×魔術男子のカップルです。 全13話。 ✳︎婚約破棄劇自体は出てきません。 ✳︎設定含めて色々ゆるゆるの極み。 ✳︎ざまぁは特にありません。 ✳︎他サイトでも掲載予定。

「俺が君を愛することはない」じゃあこの怖いくらい甘やかされてる状況はなんなんだ。そして一件落着すると、今度は家庭内ストーカーに発展した。

下菊みこと
恋愛
戦士の王の妻は、幼い頃から一緒にいた夫から深く溺愛されている。 リュシエンヌは政略結婚の末、夫となったジルベールにベッドの上で「俺が君を愛することはない」と宣言される。しかし、ベタベタに甘やかされているこの状況では彼の気持ちなど分かりきっていた。 小説家になろう様でも投稿しています。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...