レンタル悪女を始めましたが、悪女どころか本物の婚約者のように連れ回されています。一生独占契約、それってもしかして「結婚」っていいませんか?

石河 翠

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「なるほど。ことの経緯は理解した。別にミュージカル仕立てで部屋の中をうろついてくれなくてもよかったのだが」
「すみません、ついつい力が入ってしまいまして」
「それで、『レンタル悪女』の実績は?」
「ゼロですね」
「ゼロ?」
「サービスがサービスですし、おおっぴらに営業をするわけにはまいりません。どなたか、信頼のおけるかたに口コミで広めていただかなくては」
「その割りには、先ほどあけっぴろげに営業をしていたようだが」
「あれはちょっとやけくそだったんですよ。今月末でこの部屋を出ていかなくてはならなくなったので」

 どこぞの奥さまが、「悪女」が夫をそそのかしたと大家さんに吹き込んだ結果です。テンションをあげてないと、やってられません。でもやけくそでなければ、家庭教師として住み込みで働けたんですよね。辛い。

 ギルバートさまはふむと腕を組まれました。

「クララ嬢は、今月末には引っ越しをしなければならない?」
「はい」
「本当は家庭教師で食べていきたかった?」
「そうですね」
「ちなみに社交の経験は?」
「貴族として生きてきましたから、それなりに……」
「ならば、『レンタル悪女』の契約をしてもよいだろうか。オプションとして、『レンタル悪女』として活動していない時間は、妹の家庭教師をしてほしい」

 予想外の言葉に、わたしは目を丸くしてしまいました。

「何を驚いている。あなたの希望通りになっているはずだが」
「『レンタル悪女』ですよ? 失礼ですが、ギルバートさまには不要のサービスだと思うのですが……」

 そもそも、放っておいても女性陣のほうから群がってきますよね?

「年の離れた妹のために家庭教師を雇っても、みな私にちょっかいをかけてきて鬱陶しい。あなたを雇えば、妹の家庭教師と、私のパートナー役のどちらもこなしてくれるのだろう?」

 言外に色目を使うなと釘を刺された気がして、必死でうなずきました。

「も、もちろんです。」
「お互い利益のある契約だ。あなたに損はさせない。まずは3ヶ月後の夜会まで。必要があれば、さらに契約を延長するということでどうだろうか」

 ギルバートさまのパートナー役を務めれば、それなりの相手に顔を売ることができるはず。これから悪女として身をたてるのならば、この申し出を断る理由はありません。悩んだ時間は数秒ほど。

「わかりました。どうぞよろしくお願いいたします」

 おそらく現状より悪くなることはないでしょうから。素直にお言葉に甘えることにしました。
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