残念なことに我が家の女性陣は、男の趣味が大層悪いようなのです

石河 翠

文字の大きさ
上 下
6 / 7

(6)

しおりを挟む
「なーにが、『僕ひとりじゃ、仕事が終わりそうにないのお。お願い、アデル手伝ってえ』だよ」
「僕、そんなに語尾を伸ばした覚えはないけど? そもそも、あの無能が無駄に仕事を溜め込んでいたのは事実だから、わりかし厳しい量だったよ」
「可愛い顔をして、言っていることがえげつない」
「今さらでしょ?」

 僕は紅茶を飲みながら、肩をすくめてみせた。アデルの御父上が青筋を立てて騒いでいる。本当に賑やかなひとだ。

「どうしてアデルは、甘えん坊どころか腹黒なお前に気づかないんだ。うううう、可愛いアデルがこんな男の毒牙に!」
「僕みたいに無邪気な人間は、そうそういないっていうのに」
「お前の無邪気さは残酷さと紙一重で怖いんだよ。アデルを守るために、外に出さないで囲うっていう解決方法をとるのは発想が既に病んでいる」

 ずいぶん言いたい放題だ。そんな僕らの隣で、アデルの祖父君は笑顔で手土産のお菓子をつまんでいる。アデルも笑顔で食べてくれているだろうか。僕は、アデルの笑顔が見たかったのになあ。

「僕のそばにいてくれたら安全だからね。わざわざ、いろんなひとと接触させて厄介事に巻き込まれる可能性を高める必要はないよ。無能兄貴から奪い取った可愛い婚約者なんだ、絶対に誰にも傷つけさせない」
「殿下が次期国王でよろしいでしょうに」
「ええ、やだよお。国王になんてなったら、アデルを人前に連れて行かなきゃいけなくなるもん。僕のアデルに横恋慕するひとがこれ以上増えたら、毎日戦争しなきゃいけなくなるし。国を潰すのは簡単だけど、その後の処理が死ぬほど面倒くさいんだよ」
「ああ、いやだいやだ。できるけどやらない有能ぶりを見せつけてくれなくてもいいんだってば」
「邪魔になったら老若男女問わず切り捨てているひとには言われたくないな」
「切り捨てはしているけど、斬り捨ててはいないから。ちゃんとそれぞれ、本人たちの資質を伸ばせるところに連れていくだけだし」
「物は言いようですな。よきかな、よきかな」

 アデルが女性陣と休憩をしている間、僕はアデルの御父上たちと話をしていた。話題はもちろん、進捗確認だ。

「はあ、隣国の王女はシロだ。しつこくアデルに話しかけているから、『ヒロインもどき』かと思ったら、まさかのアデルを義姉にしたいから、僕とアデルの仲を引き裂こうとしていただけだったし。……いや、隣国の王子が『ヒーローもどき』の可能性は高いわけだし、念のため消しても問題ないか?」
「念のための処分では、問題はあるに決まっているだろう。消すなら、確証をとってくれ」
「ちっ」
「どさくさに紛れて、危ないことを考えてくれるなよ」

 この国には、呪いがかかっている。もうずいぶん昔のことだが、異界から現れた「ヒロイン」とやらがこの国を引っ掻き回してくれたらしい。その女は、我が国のとある令嬢に「悪役令嬢」という呼び名をつけ、すべての理不尽を煮詰めたかのような辛苦を彼女に与え続けた。

 どうにかして「ヒロイン」を退治したものの、その化け物は死に際に世界に呪詛をまき散らしていった。そのせいだろう、この国には定期的に「ヒロインもどき」と呼ばれる化け物が現れるようになったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?

石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。 本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。 ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。 本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。 大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?

キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。 戸籍上の妻と仕事上の妻。 私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。 見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。 一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。 だけどある時ふと思ってしまったのだ。 妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣) モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。 アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。 あとは自己責任でどうぞ♡ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

処理中です...