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「……はいはい。キアランがどっかのお坊ちゃんだってことはわかっていたけれど、まさかねえ。まあ、いいや。として大事にしてね」

 あのイカれ親父に振り回されてきたのだ。もともとキアランのことは好きだったわけで、長いものには巻かれろの精神で生きた方が、人生は幸せになれる。だからこの事態も乗り切れ……。

だよ」
「は」
「側室も愛妾も持つつもりはないから、シャーロット、よろしくね」
「はああああああああ」
「君を迎えに来るために、ちゃんと君のお父さんたちとの約束どおり国は手中に収めてきたから。あの日のように君に守られるのではなく、君を守るだけの力をつけたつもりだ」

 高位貴族だとは思っていたけど、王子さまって。いやいやいや、無理でしょ。辺境の平凡な村娘が、よその国の王子さまと結婚できるわけないじゃん。長いものには巻かれろで乗り切れるかい。暗殺とか幽閉とかごめんだわ!

「大丈夫、君は言語もマナーも完璧だ。自分の身を守る以上の力もある。むしろ、君が魅力的過ぎて悪い人間を引き寄せないかが心配だ」
「冗談はやめてよ」
「『古代神聖語』を日常会話として使い、主要3言語の他に、マイナーな我が国の言葉まで扱えるなんて」

 えーと、「大陸共通語」として教わっていたのがキアランの国の言葉で、ただの母語だと思っていたのが「古代神聖語」で、方言だと思っていたのが主要3言語? なんだそりゃ。

 というか、違う国の言葉みたいだと思っていたら本当に別の国の言葉だったのかよ。

「襲いかかる数々の手練れの暗殺者を、害獣として処理するその手際の良さ。まさかあの秘術がまだ残されていたとは」

 凶暴なイノシシや山猿と一緒に処理していたのが、暗殺者だと? 食うに困った農民の成れの果ての山賊だと思っていたから、して村民として引き取っていたのに。ということは、うちの村民、後ろ暗いひとしかいないの? あと秘術ってなに?

「毒を含む動植物を日常的に食料として取り入れるその胆力!」

 ちょっと下ごしらえに手間がかかるだけで、どれも美味しかったでしょ? キアランも喜んで食べていたじゃない。巨大食虫アケビも、怪魚も、毒蔓ノブドウも絶品だったでしょ。それに、ここで収穫できるものは、だいたいあんなものばっかりだし。

「さすが、かつての勇者たちの秘蔵っ子だね」
「ごめん、その情報詳しく!」
「まさか伝説の勇者、聖女、賢者に魔王がに住まい、それぞれ村長を務めて、この世界のバランスをとっていたとは」
「そこ、そこのとこもっと詳しく~」

 にこにこ笑顔の腹黒美青年は、それは嬉しそうに笑っている。何事もよくわからないからって、適当に過ごすもんじゃないね。しっぺ返しってあるんだなあ。

 儚げな美少年は、繊細どころか、したたかで腹黒な王子さまだったけれど、それに気がついたときには時すでに遅しでした。でもなんだかんだで、異国の地で幸せに暮らしています。

 でも、クソ親父は許さないから。とりあえず、私に教えてくれていた常識がひと通り世間からズレていることがわかったので、しばらく孫には会わせないでおこうと思います。この子には、まっとうな道を歩ませるんだからね!
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