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テントウムシは思った以上に肉食だった(2)
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そもそも追放されることになった原因は、本当に些細な出来事だった。虫嫌いの聖女さまから、バラ園のテントウムシを守った。たったそれだけのことだったのだから。
あの日は、王宮主催のパーティーが開かれていた。年頃の貴族の子女と教会の要職者は、必ず招待される恒例行事。田舎領主の娘とはいえ、わたしももちろん招待されていた。
楽しくもない腹の探りあいに見栄の張り合い。田舎から王都への交通費もかかる上に、普段着にもならないドレス代だってかかる。何とも頭の痛いイベントだ。そんな中で、慣れない人混みに疲れたわたしは、王宮の庭園でこっそり一休みしていた。
普段からきちんと管理されているのがよくわかる美しい庭園。けれど、そこにつんざくような悲鳴が響きわたった。
「きゃああああああ、何これ気持ち悪い! いや、こんなのがいたらせっかくのバラが台無しだわ! どうにかしてちょうだい!」
そこには、怒り狂う聖女さまの姿があった。聖女さまが指差しているのは、テントウムシの幼虫。まあ、正直なところ結構気持ち悪い見た目をしているとは思う。黒と黄色のコントラストは、やっぱりグロテスクだものね。でも、庭園だもの、虫くらいいるのが当然じゃない。
しかもテントウムシは、バラの天敵であるアブラムシを食べてくれる。バラにアブラムシがいない時期には、テントウムシが飛び立ってしまわないように、庭師たちが苦心してとどめ置いているくらい大事な虫なのだ。
え、詳しすぎだって? 我が家は田舎だからね。領主の娘も、農繁期には単なる人手でしかないのよ。だから、天然の農薬なんて言われるテントウムシのありがたさをよく知ってるってわけ。それなのに、聖女さまは幼虫をどうにか……つまりは駆除しろとおっしゃるのね。見た目が気持ち悪いという、たったそれだけの理由で。
あれ、聖女さまって、「殺さず」の誓いを立てていらっしゃるのではなかったっけ? 聖女さまだもの、教会の教えは絶対のはず。自分は戒律を破ることはできないから、他人に殺させるってことなのかしら?
わたしが首を傾げていると、護衛なのか、取り巻きなのか、見目麗しい騎士が、剣を振りかぶっているのが見えた。そんなもの振り回したら、バラごとめちゃくちゃになっちゃうじゃない!
とっさにわたしは青年に体当たりし、テントウムシの幼虫を守ることはできた。そう、できたのだけれど……。最終的に聖女に毒虫をけしかけ、卑怯な手段で剣士を痛めつけた悪女として裁かれることになったのよね。
いや、確かに助けようとしたテントウムシの幼虫は異常に大きかったよ。さすがにわたしも、男性のてのひらサイズだとは思わなかったよ。でもさ、突き飛ばした騎士がすっ転んで幼虫に頭をめり込ませたあげく気絶したのは、わたしのせいじゃなくない?
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