テントウムシは思った以上に肉食だった~聖女さまから追放された結果、無事にお婿さんをゲットしました~

石河 翠

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テントウムシは思った以上に肉食だった(1)

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 聖女に害をなしたという濡れ衣で、王都から追放されたその夜。森でひとり寂しく野宿するわたしの元にやってきたのは、とんでもない美少女だった。

 えーっと、あれあれ、おかしいな。わたしの性別、女なんですけど。こういう時に迎えに来てくれるのって、お金持ちのイケメンなんじゃないの? ほら、王太子とか、騎士団長や宰相みたいなお偉いさんの令息とか、隣国の王子とかさ。知らんけど。

「以前、あなたに助けていただいたものです。どうぞ、今こそ恩返しをさせてください。きっとあなたのお役に立ってみせます」

 首を傾げるわたしに向かって、彼女はくりくりとした焦げ茶色の瞳をうるませる。田舎領主の娘で、ぎりぎり貴族に引っかかっているわたしよりも、ずっとずっと可愛らしいその姿。あざとさがないぶん、聖女さまより聖女さまらしく見える。可愛いは正義ってこういうことか!

 普通に考えれば、こんな申し出、怪しむべきだと思う。着の身着のままでさ迷うわたしを助けるということは、教会に楯突くことと同じ。聖女に危害を加えた不届き者に手を差しのべるなんて、。でも、わたしはとりあえず彼女を信じることにした。だって、彼女の正体は見た目からしてバレバレだったのだから。

 この国が祀っている神様は、異類婚姻譚が好きだ。とにかく、何かあれば異類婚姻譚にしてめでたしめでたしという結末になっている。だから美女や美少女など容姿が整っている存在は、何かの化身というのがこの国のセオリーだったりする。たぶん、この国の神様はおつむと趣味が悲しいほどに悪いのだ。誰かに聞かれたら教会と王家への不敬罪で捕まるから、おおっぴらには言わないけれど。

 わたしは、もう一度ゆっくり彼女の姿を確かめる。

 貴族らしからぬ、耳の辺りで揃えたばっさりと切り揃えた髪。
 にも関わらず、まったく日焼けしていない素肌。
 四つ葉のクローバーを各所にあしらった、平民が着ることなどできない仕立ての良いブラウスとキュロット。

 同じく四つ葉のクローバーを模したエメラルドのイヤリング。 
 そしてきわめつけは、七つの星をあしらったまるっこい真っ赤な帽子と、同じ柄の真っ赤なルビーのブローチ。

 どれも幸運の象徴だけれど、こんなものを身につけた普通の女の子が、野盗に襲われないはずがない。

 そう、彼女は以前わたしが助けた……そして追放の原因になったテントウムシに違いなかった。
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