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「その昔、あなたが僕に『魔力交換の仕方を教えてくれ』と話したのを覚えていますか?」
「ああ、うん。どうせ使わない魔力だし、売れたらいいなあと思って。でも魔力の売り買いって聞かないから、一般的じゃないんでしょ?」
あの感じだと、完全に非合法みたいだったし。私が首を傾げると、トビアスが楽しそうに笑った。……え、トビアスが笑った? やべえ、空から槍が降ってくるぞ。
「男女の交わりを行うと、魔力を交換できるんですよ」
「……は」
「ただし、一方的な搾取ではできません。その場合、相当な痛みと肉体的な損傷が発生するのだとか」
ははあ。たぶん、もげるんだな。何とは言わないけど、ナニがさ。
「好意を持った者同士の魔力交換は、凄まじいそうですよ。まさに愛の交歓というわけですね」
交換っていうか、交歓っていうか、それただのエロジジイの親父ギャグなのでは?
「また馬鹿なことを考えていますね」
「ま、まさかあ。ただ、この流れだとまるでトビアスが私のことを好きだって言ってるみたいだなあって思ってさ。あれでしょ、魔力の質とか型とか量とかが近い方が便利だから嫁にしたって理解でいいんだよね……?」
ものすごい不機嫌な顔で近づいて来られて、さすがの私も震えあがった。この顔は、初めてお酒を飲んだときに、トビアスにうざがらみをして以来だ。ヤバい、こ、殺される。
ぐにぐにぐにぐに。私の頬を死ぬほど引き伸ばしながら、トビアスが早口でまくしたててきた。
「いやあ、この鈍感野郎を相手に幾星霜。我慢強い自分を自分で褒めたくなってきました」
「ひいっ。野郎じゃないもん、女だもん」
「僕がどういう気持ちで、今まであなたの話を聞いていたと思っているんです」
「う、うるさかった?」
「ええ、もう本当に腹立たしくて腹立たしくて」
「ご、ごめんなさい!」
「隣で片思いにくすぶっている人間に、平気で好きな相手のことを語りかけてくるとか、どういう神経なのか理解できず、何度どついてやろうかと思ったかわかりません」
「どついてたじゃん! 昔から私のこと、平気でどついてたじゃん!」
っていうか、別に私は元婚約者のことを男性として好きだったことなんて一度もないし。元婚約者と親友、たったふたりの友だちのことを心から大切にしていただけだし。あ、この男、私の言い訳、完全にスルーしてやがる。
「まあ、それも昔の話です。邪魔なあなたのお友だちとやらは無事に結婚して片付きましたし、あなたの気持ちはどうであれ、あなたは私の妻になりました。一緒に暮らしていればお優しいあなたのことです。私への同情も、すぐに愛情に変わることでしょう」
トビアスが、ちらりと指輪に目を向ける。満足そうな笑みに、やっぱりこの指輪は魔道具かもしれないと頭が痛くなる。
「まあ、あなたの心が僕に傾くまでいくらでも待ちますよ。今まで散々おあずけをくらってきたんです。名目だけでも妻になってくれたことで、少しは飢えが和らぎました」
か、か、髪にキスされたあああああ。
「あわわわっわわわあ」
「疲れたでしょう。使用人に湯あみの準備をさせます。僕は別の部屋で休みますから、心配する必要はありません。それでは、また夕食で」
「トビアスのばかああああ」
「可愛らしいことで。先ほどまで脱ぐとか脱がないとか言っていたとは思えませんね」
急遽始まった結婚生活は、波乱の幕開け。動揺する私を放置して、トビアスは笑いながらさっさと部屋を後にしてしまった。やはりあの男はいけ好かないイケメンである。きっと娼館で女を抱きまくっていたり、未亡人相手に浮名を流しているに違いない。あれで童貞なら、指差して笑ってやる。
「だって、絶対に無理だと思ってたから」
奴隷扱いでも、ご主人さまがトビアスなら別にいいやって思っていたって伝えたら、トビアスはどんな顔をするんだろう。トビアスに囁かれた甘い言葉が脳内をリフレインしている。
その熱量に耐えきれなくて、トビアスがいなくなった部屋で私はひとり転げ回ることになったのだった。
「ああ、うん。どうせ使わない魔力だし、売れたらいいなあと思って。でも魔力の売り買いって聞かないから、一般的じゃないんでしょ?」
あの感じだと、完全に非合法みたいだったし。私が首を傾げると、トビアスが楽しそうに笑った。……え、トビアスが笑った? やべえ、空から槍が降ってくるぞ。
「男女の交わりを行うと、魔力を交換できるんですよ」
「……は」
「ただし、一方的な搾取ではできません。その場合、相当な痛みと肉体的な損傷が発生するのだとか」
ははあ。たぶん、もげるんだな。何とは言わないけど、ナニがさ。
「好意を持った者同士の魔力交換は、凄まじいそうですよ。まさに愛の交歓というわけですね」
交換っていうか、交歓っていうか、それただのエロジジイの親父ギャグなのでは?
「また馬鹿なことを考えていますね」
「ま、まさかあ。ただ、この流れだとまるでトビアスが私のことを好きだって言ってるみたいだなあって思ってさ。あれでしょ、魔力の質とか型とか量とかが近い方が便利だから嫁にしたって理解でいいんだよね……?」
ものすごい不機嫌な顔で近づいて来られて、さすがの私も震えあがった。この顔は、初めてお酒を飲んだときに、トビアスにうざがらみをして以来だ。ヤバい、こ、殺される。
ぐにぐにぐにぐに。私の頬を死ぬほど引き伸ばしながら、トビアスが早口でまくしたててきた。
「いやあ、この鈍感野郎を相手に幾星霜。我慢強い自分を自分で褒めたくなってきました」
「ひいっ。野郎じゃないもん、女だもん」
「僕がどういう気持ちで、今まであなたの話を聞いていたと思っているんです」
「う、うるさかった?」
「ええ、もう本当に腹立たしくて腹立たしくて」
「ご、ごめんなさい!」
「隣で片思いにくすぶっている人間に、平気で好きな相手のことを語りかけてくるとか、どういう神経なのか理解できず、何度どついてやろうかと思ったかわかりません」
「どついてたじゃん! 昔から私のこと、平気でどついてたじゃん!」
っていうか、別に私は元婚約者のことを男性として好きだったことなんて一度もないし。元婚約者と親友、たったふたりの友だちのことを心から大切にしていただけだし。あ、この男、私の言い訳、完全にスルーしてやがる。
「まあ、それも昔の話です。邪魔なあなたのお友だちとやらは無事に結婚して片付きましたし、あなたの気持ちはどうであれ、あなたは私の妻になりました。一緒に暮らしていればお優しいあなたのことです。私への同情も、すぐに愛情に変わることでしょう」
トビアスが、ちらりと指輪に目を向ける。満足そうな笑みに、やっぱりこの指輪は魔道具かもしれないと頭が痛くなる。
「まあ、あなたの心が僕に傾くまでいくらでも待ちますよ。今まで散々おあずけをくらってきたんです。名目だけでも妻になってくれたことで、少しは飢えが和らぎました」
か、か、髪にキスされたあああああ。
「あわわわっわわわあ」
「疲れたでしょう。使用人に湯あみの準備をさせます。僕は別の部屋で休みますから、心配する必要はありません。それでは、また夕食で」
「トビアスのばかああああ」
「可愛らしいことで。先ほどまで脱ぐとか脱がないとか言っていたとは思えませんね」
急遽始まった結婚生活は、波乱の幕開け。動揺する私を放置して、トビアスは笑いながらさっさと部屋を後にしてしまった。やはりあの男はいけ好かないイケメンである。きっと娼館で女を抱きまくっていたり、未亡人相手に浮名を流しているに違いない。あれで童貞なら、指差して笑ってやる。
「だって、絶対に無理だと思ってたから」
奴隷扱いでも、ご主人さまがトビアスなら別にいいやって思っていたって伝えたら、トビアスはどんな顔をするんだろう。トビアスに囁かれた甘い言葉が脳内をリフレインしている。
その熱量に耐えきれなくて、トビアスがいなくなった部屋で私はひとり転げ回ることになったのだった。
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