平民として追放される予定が、突然知り合いの魔術師の妻にされました。奴隷扱いを覚悟していたのに、なぜか優しくされているのですが。

石河 翠

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「ねえ、トビアス見てみて」
「お手本みたいな裏帳簿ですね。どこから持って来たんですか」
「クソ親父の部屋から。はい、これトビアスにあげるね」
「これを僕に寄越して、何をするつもりなんですか?」
「我が家を潰す。そうしないと、婚約者の未来がクズ異母妹に喰い潰されちゃうもん」
「はあ。実家がお取りつぶしになったら、あなたの未来もお先真っ暗ですよ」
「そこはさあ、なんとか司法取引で私のみ平民落ちくらいで許してもらえない?」
「平民落ちが温情だと思っているようなご令嬢は、あっさり身包み剥がされて娼館に売り飛ばされるのがオチですね」
「マジかあ。娼館はイヤだなあ。シモい病気で早死にしそう。だったらヒヒじじいの愛人とかになれないかなあ」
「何を馬鹿なことを」
「あのさあ、金持ちのエロじじいの知り合いとかいない? 顔にこだわりがなくて、若い女なら誰でもいいっていう節操なしだと助かるんだけど」
「いません!」
「あーあ、私がキラキラ美人とかなら一発逆転玉の輿とかもありそうなんだけど、そううまいこといかないよなあ」

 まあこんな感じで結局、断罪までの間に愛人になることはできなかったのだけれど。やっぱり、ぐっとくる感じの儚げ令嬢じゃなきゃ玉の輿は無理らしい。ちくしょう、若さとガッツはあるから、実家と心中するくらいならヒヒじじいの下の世話&介護要員大歓迎だったのにな。

 断罪後、家族まとめて牢にぶちこまれると思いきや、私たちは最初の段階でバラバラにされた。たぶん一緒にいても、問題しか起こさないと思われたんだろうな。まあ、みんなぎゃーすかぎゃーすか騒いでいたからね。ひとつの牢にぶちこんだら、共食いでも始めていたかもしれない。クズの蠱毒とか、マジでヤバいものが出来上がりそう。王の犬なら、それでも使役できるかな。

 ちなみに父親は鉱山奴隷、継母と異母妹は最下層の娼婦にされたらしい。一発処刑じゃないところが、陛下の怖さなんだよね。どうせ、王の犬特製の自殺できない枷とかが付いているんだろうなあ。マジ、陛下も王の犬もこええええええ。

 祖父母を含めて、甘い蜜を吸っていた親戚一同、それぞれふさわしい地獄に落ちていったそうな。他人事ならここでめでたし、めでたしで終わるんだけどね、まだ自分の番が残っているからね。

 こりゃ、平民落ちとか夢のまた夢だったわ。なんて反省していた時にやってきたのが、トビアスだったというわけ。……えーと、つまり私はトビアス専用の奴隷ってこと?

 なるほど、だから「妻」なんて制約をつけたのか。この国では、個人の奴隷所有は禁じられているもんね。妻と言う名の奴隷とか、ちょっと文学的じゃん。

 どんな扱いであっても、不特定多数の荒くれ者を相手にするよりは断然いいよねってことで、私は大人しく彼に従うことにした。

 さっきつけられた指輪、反抗的な態度をとったら指が千切れるとかないよね?
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