平民として追放される予定が、突然知り合いの魔術師の妻にされました。奴隷扱いを覚悟していたのに、なぜか優しくされているのですが。

石河 翠

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 トビアスは、社交界に出入りしていない私の数少ない知人である。うん、知人ね、知人。私なんかが友だちとか言ったら、気持ち悪がられて後ろから攻撃されそうだし。

 トビアスに出会ったのは、貴族街にほど近い神殿だ。家族の嫌がらせで食事にありつけなかった私が、家を抜け出し貧民向けの炊き出しに参加していたところ、声をかけられたのだ。上級貴族並みに魔力が溢れているのに、ガリガリの体をした子どもは遠目から見ても異様だったらしい。

「マジかあ。魔力があっても魔術の才能がないんじゃ意味ないじゃん。この魔力って、取り出して売れないの?」
「魔力を他人に譲渡する手段はあるにはありますが、子どもには推奨できませんね」
「え、トビアス知ってんの? ケチケチしないでやり方を教えてよ」
「絶対に嫌です」
「ケチ。このイケメンむっつり!」
「むっつりとは聞き捨てなりませんね。どこでそういう言葉を覚えたんです。そもそもその言葉遣いはなんとかならないんですか?」
「だって、ここら辺の子どもたちとしかしゃべんないんだもん。そりゃ、口調も移るよ。家族は私のことなんて無視するし、使用人も私としゃべっているのが見つかると、首になるしね」
「なるほど」
「あと、不用意にお貴族さまの言葉を話していると拐われるらしいよ。トビアスは魔術が使えるし、護衛もいるから大丈夫だろうけど、私はへっぽこだし、拐われても身代金とか払ってもらえないからさあ。やっぱりこれくらい口が悪くてちょうどいいんじゃね?」
「……そうですか」

 このとき出会った少年こそ、将来泣く子も黙る超有名魔術師となるトビアス。我が国の最終兵器と言われる魔術師団、通称王の犬に所属する若き天才なのだ。

 そんな重大な情報を、彼が私に教えてくれた理由は未だにわからない。まあたぶん、友だちもいないし、家族関係も破綻しているからぺらぺらしゃべる相手もいなくて大丈夫だと判断されたんだろう。ひっでえ奴。まあ、事実だけどさ。

 そういう訳で頼る相手のいなかった私は、ただひたすら彼に我が家の内情を暴露しまくった。だって戦場に出ていないときの王の犬の仕事は、国に悪事をなす貴族の粛清なのだ。彼ならこの情報をちゃんと使いこなしてくれると信じていた。
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