平民として追放される予定が、突然知り合いの魔術師の妻にされました。奴隷扱いを覚悟していたのに、なぜか優しくされているのですが。

石河 翠

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 私はとある貴族の長女として生まれた。政略結婚だった両親の仲は冷め切っており、父は愛人の家に入り浸り。家庭環境は幼少期の時点で最悪だと思っていたけれど、残念ながら下には下が存在していた。

 心身を病んだ母が亡くなると、父がすぐに再婚したのだ。もちろん周囲の予想通り、継母とともに私と同い年の異母妹を連れての再婚だった。マジで典型的な貴族のクソ親父である。もちろんその後、継母と異母妹には執拗に苛められたし、父親は私のことをいないものとして扱った。

 母方の祖父母に助けを求められたら良かったのだが、残念ながらそちらも相応のクズだった。そもそも娘を無理矢理侯爵家に嫁がせたのも、父から母の実家に援助をさせるためだったらしい。夫の気をひくこともできずに病死してしまう役立たずの娘も、自分たちに金を運んでくるどころか、保護を求める孫も邪魔でしかなかったようだ。ゴミ溜めか、この世界は?

 そんな私にとっての唯一の癒しが、婚約者と過ごすひととき。まっとうな感覚を持つ彼とおしゃべりをしているときだけは、私も穏やかな気持ちになれた。そして大好きな彼を見ていれば、彼が誰のことを想っているかなんて簡単に理解できる。

 彼の好きなひとが、私の親友だとわかったときは狂喜乱舞した。この親友は早くに母の代わりに私を育ててくれた乳母の娘だ。下級貴族の娘で奉公する必要はないにも関わらず、私のためにこのクソみたいな屋敷で行儀見習いとして働いてくれている。

 大好きなひとと大好きなひとがくっつくなら、それはただの足し算にはならない。掛け算どころか、数字が爆発するくらいの尊さが溢れ出すのだ。

 とはいえ、私と彼の婚約は政略的なものだったりする。しかも我が家のゴリ押しで決められたものなので、発言権が虫以下の私の提言など絶対に通らない。

 おまけに異母妹が、私から婚約者を取り上げようと画策し始めたからもう大変だ。もちろんクズの遺伝子を煮詰めたクズ・オブ・クズな異母妹なので、婚約者のことを好きになってしまったなんて言っているのはただのでまかせ。あいつは私の大切なものを踏みにじることに喜びを覚えるやべえ女なのである。

 このままでは、大好きな婚約者と大好きな親友をくっつけるどころか我々の人生はお先真っ暗だ。

 よし、この家を終わらせよう。たぶん私もろとも処罰されるけど、もうどうしようもないや。大切なふたりの未来には代えられないもんね。

 ここに来てようやく腹をくくった私は、もろもろの事情を顔見知りのトビアスに打ち明けたのだった。
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