7 / 9
(7)
しおりを挟む
「君は、僕が別の女性とそういう関係であったとしても気にならないというのか?」
「そもそも新婚初夜以来私と寝所が別なのですから、他に女性がいると思うのが普通ですよ」
「……そんなに冷静だなんて。君は僕以外に誰か男がいるのではないか?」
「閣下ではあるまいし、不誠実なことなどいたしません」
やれやれと肩をすくめるイヴに、震える手で手を伸ばす。しかしその手がイヴの体に届くよりも先に、彼女は一歩後ろに下がった。
「だが、君が離婚届を出してから今日まで屋敷に留まっていたということは、僕に気持ちを残していたのでは?」
「貴族の妻となったものは、妊娠していないかの確認がとれなければ正式な離縁が認められないのです。疲れで月のものが乱れるひとも多いそうですから、無事に証が来てほっといたしましたわ。新年は身綺麗な状態で迎えたいですもの」
情報の洪水に立ち尽くすエリック。憎たらしいと思っていたはずの妻を大切に感じ始めたら、相手からは蛇蠍のごとく厭われていたとは。震える声で言葉を絞り出す。
「じゃあどうして、『最後の一日を、喧嘩して終わるなんてもったいない』なんて言ったんだ。『特別な一日を過ごしましょう』と言ったのは君だろう……」
「不用品として捨てられるのは我慢ならないですもの。どうですか、急に離婚するのが惜しくなったのではなくって?」
「何を言っているのか、僕には理解できない……」
「それならば別に構いません。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?」
「閣下だなんて、他人行儀な」
「だって、他人ですもの。もう二度とお目にかかることもないでしょうから、言いたいことを言えてすっきりいたしました」
これが最後だと、イヴは美しいお辞儀をする。
「それでは、どうぞ良いお年を」
立ち去る間際、エリックを振り返ったイヴの表情は出会ってから今までの中で一番美しく、艶やかなものだった。
「そもそも新婚初夜以来私と寝所が別なのですから、他に女性がいると思うのが普通ですよ」
「……そんなに冷静だなんて。君は僕以外に誰か男がいるのではないか?」
「閣下ではあるまいし、不誠実なことなどいたしません」
やれやれと肩をすくめるイヴに、震える手で手を伸ばす。しかしその手がイヴの体に届くよりも先に、彼女は一歩後ろに下がった。
「だが、君が離婚届を出してから今日まで屋敷に留まっていたということは、僕に気持ちを残していたのでは?」
「貴族の妻となったものは、妊娠していないかの確認がとれなければ正式な離縁が認められないのです。疲れで月のものが乱れるひとも多いそうですから、無事に証が来てほっといたしましたわ。新年は身綺麗な状態で迎えたいですもの」
情報の洪水に立ち尽くすエリック。憎たらしいと思っていたはずの妻を大切に感じ始めたら、相手からは蛇蠍のごとく厭われていたとは。震える声で言葉を絞り出す。
「じゃあどうして、『最後の一日を、喧嘩して終わるなんてもったいない』なんて言ったんだ。『特別な一日を過ごしましょう』と言ったのは君だろう……」
「不用品として捨てられるのは我慢ならないですもの。どうですか、急に離婚するのが惜しくなったのではなくって?」
「何を言っているのか、僕には理解できない……」
「それならば別に構いません。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?」
「閣下だなんて、他人行儀な」
「だって、他人ですもの。もう二度とお目にかかることもないでしょうから、言いたいことを言えてすっきりいたしました」
これが最後だと、イヴは美しいお辞儀をする。
「それでは、どうぞ良いお年を」
立ち去る間際、エリックを振り返ったイヴの表情は出会ってから今までの中で一番美しく、艶やかなものだった。
120
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

婚約者を解放してあげてくださいと言われましたが、わたくしに婚約者はおりません
碧桜 汐香
恋愛
見ず知らずの子爵令嬢が、突然家に訪れてきて、婚約者と別れろと言ってきました。夫はいるけれども、婚約者はいませんわ。
この国では、不倫は大罪。国教の教義に反するため、むち打ちの上、国外追放になります。
話を擦り合わせていると、夫が帰ってきて……。

元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?
樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」
エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。
他に好きな女ができた、と彼は言う。
でも、それって本当ですか?
エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる