一緒にいてもドキドキしないから、婚約を破棄してくれないかですって? そんなにときめきたいなら、思う存分させてやります。覚悟してくださいませ。

石河 翠

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「僕はずっと後悔していたんだ。野に咲く菫を手折るべきではなかったと。だから君を自由にしたい、そう思ってあの日君に婚約解消を持ちかけた」
「私にときめきを覚えないから、婚約者を変えたいというわけではなかったのですか」
「好きなひとの笑顔を奪ってまで、王宮に閉じ込めておきたくはないよ」

 少しだけ寂しそうに笑うそのお顔は、辺境伯領にいらっしゃったばかりの頃と似ています。欲しいものを全部諦めてしまった小さな子どもの口もとだけの微笑み。

「……私はまだ頑張れますよ」
「僕は、君には自由に羽ばたいていてほしい」
「私があなたの隣に立ちたいと願うこと、それを拒否することは私の翼をもぐことと同じですのに?」
「参ったな。そんな熱烈な愛の告白を受けたら、僕は君に甘えてしまうよ」
「ええ、どうぞ甘えてくださいませ。私は、守られるだけではなく、あなたを守りたいのです」

 だって私は知っているのです。本当ならあなたが私の元に婿入りする手段だってあったことを。けれど王位継承権の低い王族と辺境伯との結びつきは、叛意ありと受け止められる可能性がありました。それゆえ堂々と結婚できるように、王太子争いに名乗りをあげたのですよね。

 殿下は、誰よりも私のことを大切に想ってくださっています。だからこそ、私は殿下にこれからもドキドキしてしまうのです。

 そっと触れた唇は、幸せな未来を予感させる優しいものでした。
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