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 それからいくつかのアトラクションを回りましたが、結局殿下は「ドキドキした」とはおっしゃってくださいませんでした。それでも私はあくまで明るい声で殿下を案内します。これが最後のデートになるかもしれないのですもの。

「さあ、殿下。本日のデートはこちらで最後でございます」
「回転木馬か。今までのものとは、随分趣向が異なるようだが」
「ふふふ、殿下もきっと驚かれますよ」

 それぞれ好みの馬を選ぶのですが、私は可愛らしい栗毛の馬と目が合い、すぐさま横乗りしました。するとどうでしょう、木馬だったはずの彼らがみるみるうちに本物と寸分変わらぬ馬へと変化を遂げます。なかったはずの横鞍まで出現しているのですから、驚きです。

「これはどういうことだ?」
「魔力を流すことで、本物そっくりに変化する機械人形なんですよ。少量の魔力で構いませんし、魔力を流すことが苦手でも係員がきちんと動くようにしてくれますから。本物の馬に乗ったことがない子どもや女性にも安心安全だと人気があるのです」
「ずいぶんと馬に懐かれてはいないか?」
「機械人形とはいえ、実際の馬をモデルに動かしていますから。相性が良いと、より馬と一体化できるらしいといういうことは聞いたことがあります」

 それにしても、殿下の選んだ馬は大変やんちゃなようです。どうしてあんな暴れ馬になっているのでしょうか。これでは回転木馬というよりは、ロデオなのですが……。係員さんも初めて見る事態なのでしょう、首をひねっています。何もなければ良いのですが。

「あー!」
「殿下、大丈夫ですか!」
「いや、面目ないな」

 結局案の定と言いますか、殿下は馬から振り落とされてしまいました。あくまで回転木馬ですので、怪我がなかったことが幸いです。万が一、王族が怪我をしたことでアトラクションが廃止となってしまったら目も当てられません。

 救護室に運ばれた殿下に付き添っていると、殿下が不思議なほど穏やかな顔をしていました。いつも私の前では、不機嫌に見えるほど真面目ぶった顔をしているのに。

「こんな風にしていると、出会った頃を思い出すな」
「殿下が療養のために、辺境伯領にいらっしゃったときのことですね」
「あの頃の僕は女の子みたいだっただろう?」
「なんとも可愛らしいご様子でしたわ。それに、私こそ男の子のようでしたから」

 茶会や夜会で相手の一挙手一投足から情報を探るのではなく。執務室で眉間にしわを寄せながら書類を付き合わせるわけでもなく。こんな風にのんびりと過ごすのは一体いつぶりのことでしょうか。

 気がつけば、救護室の担当者も私たちの護衛も席を外しています。いい加減、腹を割って話せということなのでしょうね。
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