地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?

石河 翠

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 薬草を摘み終わり、部屋に戻る途中で珍しくうちの兄弟を見かけた。何せ我が兄弟は、私の安否にも基本的に無関心な奴らである。職場訪問などするはずがない。王宮勤めをしている彼らが、一体どうしてこんなところにいるのか。

 朝から押しかけてきた某王宮侍女さんみたいに、気になる相手がいたから研究所に忍び込んできた……ということはさすがにないだろう。これはなにかあると踏み、こっそり近づいて聞き耳をたてた。

「それで、カラム。いつになったら、身を固めるつもりだ」
「僕もできるだけ早く結婚したいと思っているんだよ。とはいえ、彼女は僕なんかには手の届かない女神だからね。彼女が僕を必要としないのなら、近くでそっと見守っていられるだけで満足さ」

 親しげな三人の様子、そして初めて聞くカラムさまの想いびとの話に思わず息がつまった。

「カラムさまになびかない女神ねえ。意外と鼻血を出してそこらへんで悶絶しているんじゃないの」
「ふふふ、それはどうだろうね。彼女がいなければ、僕はこんな風に明るい光の下で過ごすことはなかったからね。彼女の嫌がることだけはしたくないんだ」
「『押してダメなら引いてみろ』とは言うけれど、カラムの女神の場合には、『押してダメなら押し倒せ』だからなあ」
「君たちは、僕の女神のことをどういう風に認識しているんだい……」

 そう呟いたカラムさまは、廊下の向こう側を見つめてふんわりと笑っていた。初めて見る、優しい柔らかな微笑み。その笑顔の向こう側にいたのは、朝から私のもとでゴネにゴネていた押しの強い王宮侍女さんだった。

 兄弟の元に走り寄る彼女を見つめるカラムさまは、確かに先ほどの言葉通り好きな女性を見守っているようにも見える。

 そんなまさか!
 カラムさまは、うちの兄弟を狙っている女性に恋をしているとでもいうのか? なんとまあ、不毛な恋愛なのだろう。

 カラムさまの本命を知って胸がチクチクするのは、ライバルがうちの兄弟で、泥仕合になるのが確定しているから。そう、思い込むことにした。
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