地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?

石河 翠

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「おはよう、アイリーン。今日も一段と綺麗だね」
「おはようございます、カラムさま。血湧き肉躍る会話をちょうどやっていたからかもしれませんね」

 私の返事に、カラムさまがなんとも言えない微妙な顔をした。

「毎日あれだけ大騒ぎをしているのだから、相手の職場に苦情を申し入れれば多少マシになるのではないか」
「いいえ。彼女はうちの兄弟を巡る女性陣の中では、だいぶマシなほうです。回りくどい嫌味を言ってきたり、理不尽な嫌がらせをしてきたりはしませんから」

 突き抜けている相手とのおしゃべりは疲れるが、彼女はおかしな連中の中ではだいぶまともな方だったりする。その事実が少しだけ悲しい。

 薬学研究所に名指しで苦情を送ってくることもないし、薬草園に塩を撒いたり、薬草を片っ端から引き抜くこともしない。私の不名誉な噂を流すこともないし、暴力をふるうこともない。非常に短絡的な形で兄弟の好みを聞き、アプローチして失敗した恨みつらみをこちらにまっすぐぶつけてくるだけである。せめて相手を兄弟のどちらかに絞ってから戦いを挑んでくれるとよいのだが。

「それを『マシ』だと思うのは、いささかマズイと思うよ」
「そうですね。お茶会に誘われたので出席したら、『兄弟を呼んでこないなんて気が利かない』『あの兄弟がいなかったら、お前なんかを誘うはずがないのに』みたいなことを、回りくどくねちねちねちねちと半日かけて集団で言ってくるお嬢さま方に比べたら、彼女は可愛いものでして」
「地獄絵図だな」
「まあ、こういう嫌がらせをしてくる人たちの名前は名簿にして兄弟に渡しているので、親戚になることはないと思います。結婚相手の候補としての有無だけではなく、各種情報の照合に役立つらしいですよ。裏表が激しすぎる人間は、正直罰則を設けてほしいくらいです」
「これはまた手厳しい」
「こちらは身を守るために必死ですからね」

 鼻息荒く語る私に向かって、カラムさまが微笑んだ。

「僕は何があってもあなたの味方だ」
「もうやだ、カラムさまってば。その言い方じゃ、女の人がみんな勘違いしちゃいますよ。自分が美男子だってこと、ちゃんとわかって行動してくださいね。まったく、天然のタラシはこれだから危険なんです」
「いや、アイリーン、僕は……」
「大変、朝摘みの薬草を取りに行くのを忘れていました。まだギリギリ間に合うので、出かけてきますね!」

 うちの兄弟みたいに見境なく女を引き寄せるタイプも良くないけれど、カラムさまみたいに女性を勘違いさせてしまうタイプも罪作りだと思う。私はカラムさまの方を見ないように気をつけながら、慌てて部屋を飛び出した。
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