上 下
4 / 7

(4)

しおりを挟む
 夢の中では女子生徒から爪弾きにされていた彼女を、今回学園に溶け込ませたのもまたアントニアだった。

「やあダナ嬢、また会えたね」

 入学後、学園の階段内で初めてすれ違ったダナに声をかけると、彼女は顔を真っ青にさせた。ところが彼女は、夢の中のアントニアのことを覚えていたわけではないらしい。ただひたすら、自分から離れてくれと必死に叫ぶだけだ。

「いやあ、ダメですう」
「ダナ嬢、どうしました?」
「お願いですう、離れてくださいい。もう、これ以上、誰も巻き込みたくないんですう。きゃあ」
「危ない!」

 不思議なほど奇妙なタイミングで足をもつれさせ階段から転落しかけたたダナを、アントニアは片手で軽々と支えてみせた。もちろん一緒に床に転がり落ちるような無様な真似はしない。ところが、ダナは目を大きく見開いて震えていた。

「嘘……」
「大丈夫ですか? あなたを守るために、筋肉を鍛えていたかいがありました」
「……呪いに打ち勝てるなんて、そんなことできるはずがない。ここで男子生徒に出会ったら、好感度上昇のためのイベントが必ず発生するって母さんが」
「その言葉遣いに、先ほどてのひらに当たった感触。ダナ嬢、まさかあなたは……」
「え、どこか触られていた? やっぱりラッキースケベ成功? でもこのひと、まともそうだし……」

 ぽろぽろと涙を流すダナをそっと抱きしめると、アントニアは自分の選択が正しかったことを知った。

(大丈夫、もうあなたをひとりで泣かせるようなことはしません)

「安心してください。未来は変えられます」
「でも、どうやって?」
「成功の秘訣は筋肉を鍛えることです」
「筋肉? えっと、自分は母から体型を損なうような運動は禁止されていて……」
「『ただ細いだけ』が女性らしさを意味するのではありません。健康的でしなやかに動き、人生を楽しめる美しさこそ、女性の魅力。お母さまの認識を一緒に変えてみませんか」
「でも、母はとても頑固で……」
「大丈夫です。あなたはひとりではありません。私がついています。あなたの相棒として」

 それ以来、アントニアはダナを守るようにそばに立ち続けている。

「今日も元気そうで何よりです。あなたの笑顔を見るたびに、私は生きていてよかったと心から思います」
「いいえ、こちらこそアントニアさまのおかげで、ひととしてまっとうな生活を送らせてもらっておりますのに」
「あなたの喜びは、私の喜び」
「いけません、アントニアさま。これから授業だというのに、離れがたくなってしまいます」
「いちゃつきたいなら、俺がいないところでやってくれるかな? あてつけなの? なんなの?」

 毎朝行われる感動の再会は、苦虫を噛み潰したような王太子に苦言を呈されるまで続く。

「まあ、殿下ったらまたアントニアさまとダナさまの仲に口出しして。本当にみっともない」
「ええ、まったくですわ。あのように無粋な方ですから、婚約者のひとりもおできになりませんのよ」
「ごく自然な形で、俺のことをこき下ろすのもやめてくれないかな!」

 アントニアとダナの隣で、イグネイシャスはさめざめと泣いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢扱いの私、その後嫁いだ英雄様がかなりの熱血漢でなんだか幸せになれました。

下菊みこと
恋愛
落ち込んでたところに熱血漢を投入されたお話。 主人公は性に奔放な聖女にお説教をしていたら、弟と婚約者に断罪され婚約破棄までされた。落ち込んでた主人公にも縁談が来る。お相手は考えていた数倍は熱血漢な英雄様だった。 小説家になろう様でも投稿しています。

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

浮気されたので、金をぱーっと使おうと思います

下菊みこと
恋愛
浮気されたのでお金をぱーっと使ってエステを受ける。 浮気されたのでお金をぱーっと使って慈善団体から引き取ったニャンちゃんとワンちゃんを飼う。 浮気されたので腹心の部下におねだりしてずっと一緒にいてもらう。 それだけのご都合主義のSS。 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけざまぁ?でも救いの手も差し出すからそうでもないかも。 さらっと読めるはず。短いSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

借金のカタとして売り飛ばされそうな貧乏令嬢です。結婚相手が誰になるのか天使様に尋ねてみたら、天使様もとい小悪魔と結婚することになりました。

石河 翠
恋愛
祖父の死後、借金の返済に追われるようになった主人公。借金のカタに売り飛ばされそうになった彼女は、覚悟を決めるためにある呪いに手を出す。その呪いを使えば、未来の結婚相手がわかるというのだ。 ところが呼び出したはずの「天使さま」は、結婚相手を教えてくれるどころか、借金返済のアドバイスをしてきて……。借金を返済するうちに、「天使さま」に心ひかれていく主人公。 けれど、「天使さま」がそばにいてくれるのは、借金を返済し終わるまで。しかも借金返済の見込みがたったせいで、かつての婚約者から再度結婚の申し込みがきて……。 がんばり屋で夢みがちな少女と、天使のように綺麗だけれど一部では悪魔と呼ばれている男の恋物語。 この作品は、アルファポリス、エブリスタにも投稿しております。 扉絵は、exaさまに描いていただきました。

レンタル悪女を始めましたが、悪女どころか本物の婚約者のように連れ回されています。一生独占契約、それってもしかして「結婚」っていいませんか?

石河 翠
恋愛
浮気相手の女性とその子どもを溺愛する父親に家を追い出され、家庭教師として生計を立てる主人公クララ。雇い主から悪質なセクハラを受け続けついにキレたクララは、「レンタル悪女」を商売として立ち上げることを決意する。 そこへ、公爵家の跡取り息子ギルバートが訪ねてくる。なんと彼は、年の離れた妹の家庭教師としてクララを雇う予定だったらしい。そうとは知らず「レンタル悪女」の宣伝をしてしまうクララ。ところが意外なことに、ギルバートは「レンタル悪女」の契約を承諾する。 雇用契約にもとづいた関係でありながら、日に日にお互いの距離を縮めていくふたり。ギルバートの妹も交えて、まるで本当の婚約者のように仲良くなっていき……。 家族に恵まれなかったために、辛いときこそ空元気と勢いでのりきってきたヒロインと、女性にモテすぎるがゆえに人間不信気味だったヒーローとの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

姉に全てを奪われるはずの悪役令嬢ですが、婚約破棄されたら騎士団長の溺愛が始まりました

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、婚約者の侯爵と聖女である姉の浮気現場に遭遇した。婚約破棄され、実家で贅沢三昧をしていたら、(強制的に)婚活を始めさせられた。「君が今まで婚約していたから、手が出せなかったんだ!」と、王子達からモテ期が到来する。でも私は全員分のルートを把握済み。悪役令嬢である妹には、必ずバッドエンドになる。婚活を無双しつつ、フラグを折り続けていたら、騎士団長に声を掛けられた。幼なじみのローラン、どのルートにもない男性だった。優しい彼は私を溺愛してくれて、やがて幸せな結婚をつかむことになる。

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

処理中です...