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「実はわたしたち、付き合うことになったの。親友のあなたにも、ちゃんと報告をしたくて。葵、もちろんお祝いしてくれるわよね」
客で賑わうとあるカフェ。せっかくの休日だから一緒に過ごそう。親友からそう誘われていた葵は、頼んだコーヒーを前に呆然としていた。
親友――美結――は幸せそうに、自身の隣に座る男と腕を絡める。お相手も満更でもないようで、人目をはばかることもなく親密な様子を見せつけてくる。その彼は、葵がずっと片思いしていたひとだった。
(どういうこと?)
美結には長年付き合っていた男性がいたはずだ。結婚間近だというふたりは葵にとって憧れの恋人同士。だからこそ、葵は彼女に恋愛相談をしていたのに。
『彼のどこが好きなの?』
『体格も良くてちょっと強面なのに、休憩中にお菓子を食べながらはにかんだように笑うところが可愛くて』
そんな会話をしたのは、つい先日のこと。その時には、すでに彼らは付き合いはじめていたのだろうか。彼女の左手の薬指には、記憶にあるものとは異なる指輪が光っていた。
(どうして?)
目の前でふたりのおしゃべりが盛り上がっているようだったが、葵にはただの雑音としてしか認識できなかった。
コーヒーの苦さだけが、これは現実なのだと伝えてくる。
(ずっと好きだったのに……なんて言っても無意味な話なのよね。気持ちは言葉にしなくては伝わらない。だから、彼女のことを恨んではいけない)
自分に言い聞かせながら、葵は彼らの会話が途切れたタイミングで尋ねてみた。
「美結のどんなところに惹かれたんですか?」
「俺はちょっと要領が悪くて……。飛び込みの営業とかは得意なんですけれど、その後の契約書や資料の作成が苦手で……。それを手伝ってくれたのが、彼女なんです。そうやって支えてくれる優しさに気がついたらすっかり惚れ込んでしまって」
彼の笑顔が胸を刺す。なぜなら、そのサポートとやらは、すべて葵がやっていたことだからだ。
客で賑わうとあるカフェ。せっかくの休日だから一緒に過ごそう。親友からそう誘われていた葵は、頼んだコーヒーを前に呆然としていた。
親友――美結――は幸せそうに、自身の隣に座る男と腕を絡める。お相手も満更でもないようで、人目をはばかることもなく親密な様子を見せつけてくる。その彼は、葵がずっと片思いしていたひとだった。
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『彼のどこが好きなの?』
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そんな会話をしたのは、つい先日のこと。その時には、すでに彼らは付き合いはじめていたのだろうか。彼女の左手の薬指には、記憶にあるものとは異なる指輪が光っていた。
(どうして?)
目の前でふたりのおしゃべりが盛り上がっているようだったが、葵にはただの雑音としてしか認識できなかった。
コーヒーの苦さだけが、これは現実なのだと伝えてくる。
(ずっと好きだったのに……なんて言っても無意味な話なのよね。気持ちは言葉にしなくては伝わらない。だから、彼女のことを恨んではいけない)
自分に言い聞かせながら、葵は彼らの会話が途切れたタイミングで尋ねてみた。
「美結のどんなところに惹かれたんですか?」
「俺はちょっと要領が悪くて……。飛び込みの営業とかは得意なんですけれど、その後の契約書や資料の作成が苦手で……。それを手伝ってくれたのが、彼女なんです。そうやって支えてくれる優しさに気がついたらすっかり惚れ込んでしまって」
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