瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠

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 雪が降り積もったある冬の日のことでした。

 フェリシアは、暖かい部屋で休んでいました。ふかふかのベッドの上には可愛らしいおもちゃが並んでいます。美味しいごはんや大好きなおやつにだって不自由はしません。なんとお部屋の中には、フェリシアだけが使える特別なブランコだってあるのです。

 まるでお姫さまのような優雅なお部屋。けれど、フェリシアはちっとも幸せではありませんでした。なぜなら部屋にいるのはフェリシアだけ。屋敷にはお父さまやお母さま、お兄さまやお姉さまだって一緒に住んでいるのに、フェリシアの相手をしてくれるひとはひとりもいないのです。

 思い出せないくらい遠い昔。かつては、確かにみんながフェリシアと遊んでくれました。暖炉の前でおままごとをしたり、屋敷の中を追いかけっこしたり。近くの麦畑で寝転がってみたり、雨上がりに水たまりに飛び込んでみたり。みんなが変わってしまったのは、いつからだったでしょうか。

 気がつけばいつの間にかみんな、フェリシアに会いにきてくれなくなりました。お部屋の中にはフェリシアの機嫌をとるようにいろいろなものが置いてありますが、一番大切な家族はいないのです。ほんの少しだけ開いている窓の隙間から外をのぞけば、フェリシアを抜きにして楽しそうにしているみんなの姿があります。

 時折、寂しくなったフェリシアはお部屋を駆け回ります。その場でぐるぐる回り、床の上を飛び跳ねて勢いをつけたら、壁から天井まで一回転することさえできるのです。ついでに大声を出せば完璧です。

 フェリシアがこんなお転婆をする理由はただひとつ。大騒ぎをすると、誰かがフェリシアのところに来てくれるからです。けれど、そんなときみんなはひどいしかめっ面をしています。

 それでも、みんなの顔を見るとフェリシアはほっとします。たとえ、誰も部屋の中には入ってくれなくても。フェリシアにだってわかっています。フェリシアが起きているときに部屋の扉が開かれることは決してないのでしょう。フェリシアはこの部屋を出ることさえできないのです。

 とても素敵なお部屋に住んでいるのに、フェリシアは悲しくてたまりません。一体どうすれば、フェリシアの寂しさはなくなるのでしょうか。
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