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「ご機嫌麗しゅう、王太子殿下。お誕生日おめでとうございます」
「殿下、よろしければ一曲」
「あの」
無視! 無視!! 無視!!!
再三のこちらの呼びかけもすべてスルー。その癖、他の令嬢にはにこやかに対応するんだから、マジで王太子殿下って、性格が終わっている。それでも、顔と声は死ぬほど好みなんだよなあ。まあ、暴力を振るってくることはないから、一番近くで観賞させてもらうだけでよしとするか。
案の定壁の花となった私は、一般のご令嬢なら手をつけずに見て楽しむだけの料理やデザートを心行くまで楽しむことにした。やっぱり、王宮料理人の料理は最高よね。その上、この葡萄ジュースもなかなか美味しいじゃない。最近は、ダイエットのために節制してばかりだったからね。今日は解禁日じゃー。
「飲みすぎですよ」
「ちょっと、一体どういうつもりよ」
ひとり飲食を楽しんでいたら、なぜか婚約者さまにストップをかけられた。何だこの野郎、さっきまですんごい可愛いご令嬢とデレデレ話をしてたじゃないか。なんで私が気持ちよくご飯を食べてたら怒られなきゃならんのだ。
「まったく、言うことが聞けないというのであればこのままご自宅に戻します」
「はあ、エスコートもせず、何をおっしゃるのかしら」
あら、不思議ね。今日はどうしてこんなにストレートに婚約者さまに不満をぶつけられるのかしら? 普段なら「でも、豚って呼ばれる私が悪いのに」って思えるのに。そう考えると、私に注意してくる婚約者さまの態度が妙に理不尽に思えてきた。むにっと、いきなり婚約者さまの頬を引っ張ってみる。ほほう、ほっぺたを伸ばしてもイケメンだとな。
「さわらないでください。どうなっても知りませんよ」
「なあに、豚の癖に生意気だとでも? もう怒ったわよ」
「何を言っているのか理解できませんね」
「ダンスを一曲踊ってくれたら、穏便に婚約を解消して、他のご令嬢との婚約に協力してあげようと思ったのに。必要なら、爵位の低いご令嬢を私の妹として迎え入れることも視野に入れていたのよ」
「いらぬお節介です」
「ええ、ええ。そうでしょうとも。だからね、私、正々堂々と慰謝料をもらうことにしたの」
「へえ、そうですか。どうぞ、わたしは別にかまいませんよ」
目をすっと細めて、婚約者が薄く微笑んだ。こ、こ、こええええええ。え、お前ごときが、不敬、豚は人間の言葉をしゃべるなってこと? ふふふん、でもここまで来たら、もういくしかないもんね!
自分でも理路整然としているようで、実際は支離滅裂なことを言っているような気はしたけれど、女は度胸だ。その場の勢いで婚約者に抱きついた。
婚約者に強く両腕を回せば、体重差ゆえに彼がよろめく。あああああ、なんだかなあ。体格差は確かに萌えだけど、ただの体重差は精神的に来るんですけれど? ああん? なんだこの世界? いっそ種族差ってことで、婚約者はエルフ、私はオークってことにするか?
「婚約破棄の慰謝料を払ってもらいましょうか。その身体で!」
恥も外聞も投げ捨てて、私は婚約者の唇を奪っていた。
「殿下、よろしければ一曲」
「あの」
無視! 無視!! 無視!!!
再三のこちらの呼びかけもすべてスルー。その癖、他の令嬢にはにこやかに対応するんだから、マジで王太子殿下って、性格が終わっている。それでも、顔と声は死ぬほど好みなんだよなあ。まあ、暴力を振るってくることはないから、一番近くで観賞させてもらうだけでよしとするか。
案の定壁の花となった私は、一般のご令嬢なら手をつけずに見て楽しむだけの料理やデザートを心行くまで楽しむことにした。やっぱり、王宮料理人の料理は最高よね。その上、この葡萄ジュースもなかなか美味しいじゃない。最近は、ダイエットのために節制してばかりだったからね。今日は解禁日じゃー。
「飲みすぎですよ」
「ちょっと、一体どういうつもりよ」
ひとり飲食を楽しんでいたら、なぜか婚約者さまにストップをかけられた。何だこの野郎、さっきまですんごい可愛いご令嬢とデレデレ話をしてたじゃないか。なんで私が気持ちよくご飯を食べてたら怒られなきゃならんのだ。
「まったく、言うことが聞けないというのであればこのままご自宅に戻します」
「はあ、エスコートもせず、何をおっしゃるのかしら」
あら、不思議ね。今日はどうしてこんなにストレートに婚約者さまに不満をぶつけられるのかしら? 普段なら「でも、豚って呼ばれる私が悪いのに」って思えるのに。そう考えると、私に注意してくる婚約者さまの態度が妙に理不尽に思えてきた。むにっと、いきなり婚約者さまの頬を引っ張ってみる。ほほう、ほっぺたを伸ばしてもイケメンだとな。
「さわらないでください。どうなっても知りませんよ」
「なあに、豚の癖に生意気だとでも? もう怒ったわよ」
「何を言っているのか理解できませんね」
「ダンスを一曲踊ってくれたら、穏便に婚約を解消して、他のご令嬢との婚約に協力してあげようと思ったのに。必要なら、爵位の低いご令嬢を私の妹として迎え入れることも視野に入れていたのよ」
「いらぬお節介です」
「ええ、ええ。そうでしょうとも。だからね、私、正々堂々と慰謝料をもらうことにしたの」
「へえ、そうですか。どうぞ、わたしは別にかまいませんよ」
目をすっと細めて、婚約者が薄く微笑んだ。こ、こ、こええええええ。え、お前ごときが、不敬、豚は人間の言葉をしゃべるなってこと? ふふふん、でもここまで来たら、もういくしかないもんね!
自分でも理路整然としているようで、実際は支離滅裂なことを言っているような気はしたけれど、女は度胸だ。その場の勢いで婚約者に抱きついた。
婚約者に強く両腕を回せば、体重差ゆえに彼がよろめく。あああああ、なんだかなあ。体格差は確かに萌えだけど、ただの体重差は精神的に来るんですけれど? ああん? なんだこの世界? いっそ種族差ってことで、婚約者はエルフ、私はオークってことにするか?
「婚約破棄の慰謝料を払ってもらいましょうか。その身体で!」
恥も外聞も投げ捨てて、私は婚約者の唇を奪っていた。
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