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077 神様と第十四階層②

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「先程の戦闘、どう見る?」

 コツコツと足音を響かせて石の回廊を歩きながら、私は【赤の女王】のパーティメンバーに問う。先程のゴブリンパーティとの戦闘、私的には反省点が大いにあると思う。本来、冒険の最中に反省会など暢気なことをしている余裕はないのだが、私たちには地図の宝具がある。地図の宝具のおかげで、奇襲を受ける心配もなければ、常に敵を警戒せずにすみ、こうして話す余裕が生まれていた。

「気になる点はいくつかありましたが、一番は弓を使うゴブリンの登場でしょうか」

 エレオノールの言葉に皆が頷く。弓を使うゴブリン、ゴブリンアーチャーを確認したのは、先程の戦闘が初めてだった。これまでのゴブリンは、棍棒を持った近接攻撃タイプしかいなかった。遠距離攻撃能力を持ったゴブリンの登場は、完全に予想外だった。先程の戦闘は、ゴブリンアーチャーの存在に全てを狂わされたと言ってもいいだろう。

「私は、まず初めにゴブリンアーチャーを倒せば良かったな。一番最初に姿を現したゴブリンを射ってしまったから、ゴブリンアーチャーを倒すのが遅れてしまったんだ……」

 ゴブリンアーチャーの存在に気付いた時、私は矢を射終えた直後だった。次の矢でゴブリンアーチャーを射るまでに時間が掛かってしまった。ゴブリンアーチャーに矢を射る時間を与えてしまった。その結果、ゴブリンアーチャーの一矢によって、エレオノールが窮地に立たされてしまった。

「次回からは、敵の構成を確認してから攻撃するよ」

 ゴブリンアーチャーのような厄介な敵が居るようなら優先的に潰さなくてはならない。それが弓を持つ私の仕事だろう。

「はい。奇襲性は落ちてしまいますが、その方が良いでしょう。他に気付いたことがある方はいますか?」
「はい!」

 エレオノールの言葉にリリムが勢いよく手を上げる。

「ゴブリンたちだけど、装備良くなってない?さっきのとか革鎧まで着けてたんですけど!」

 たしかにリリムの言う通りだ。十一階層では、棍棒を持ち、汚い粗末な腰巻しか着けていなかったゴブリンだが、ここ十四階層では、錆びの浮いた剣を持ち、木の盾や粗末な革鎧まで着けている。明らかにゴブリンの装備が良くなっている。

「まだボロボロの革鎧だったからよかったけどさ。あれがちゃんとした装備になったらヤバイかもー」

 ここはまだダンジョンの第十四階層。まだまだダンジョンは続く。情報では、二十階層までゴブリンが現れるらしい。今以上に装備が良くなったゴブリンの登場もありえるな。それに、ゴブリンアーチャーのように厄介なゴブリンも現れるかもしれない。魔法を使うゴブリンとか現れたら最悪だな。

「ゴブリンの装備は良くなったのに、ドロップアイテムが相変わらず棍棒なのは納得いかないわ」

 ミレイユの言葉に静かな笑いが起こる。力のない苦笑いだ。

 ミレイユの言う通り、剣を持ったゴブリンを倒したのに、ドロップアイテムは棍棒だった。なんで?と思わなくもない。剣なら錆びて使えないような状態でもクズ鉄としてそこそこの値で売れるが、木の棒なんて売っても大した値にならないからね。なんとなく損した気分は拭えない。

 まぁ実際のところは、ダンジョンを創った女神リアレクトが、いちいちドロップ品の設定を変えるのを面倒くさがっただけだろう。たぶんね。

「着いた…」

 ディアネットが静かに呟く。目的地に到着したようだ。前を向けば、通路は袋小路になっており、行き止まりの壁の前にポツンと小さな木箱が落ちていた。

 あの木箱が目標にしていた宝箱だろう。宝箱と言うには粗末な作りの木の箱だが、これがこの階層における一般的な宝箱だ。宝箱は、ダンジョンの奥深くになればなるほど、その見た目も中身も豪華になるらしい。冒険者ギルドで見た豪華な<開かずの宝箱>は、いったいどれほど深い階層のものなのだろう。

「じゃあ、開けてくるよ」
「気を付けてくださいね」

 パーティメンバーに見送られて、私は1人宝箱に近づく。宝箱を開けるのは、盗賊である私の仕事だ。盗賊の腕の見せどころである。と言っても……。

 カポッ。

 何の抵抗もみせずに、すんなり開く宝箱。この階層にあるような宝箱は、鍵も付いてなければ罠も無い。これでは腕の見せようがないな。正直、ちょっと退屈だ。

 気を取り直して、宝箱の蓋を開いて中を確認する。中には、直径5センチ程の白い球体が収められていた。宝箱の中が光りで満たされている。この白い球体、どうやら発光しているようだ。手に取ると、この白い球体の宝具の情報が、頭に流れ込んでくる。

 【光る石】
 名前の通り光る石。

 なんともそのままだな。リアレクトの適当さがにじみ出ている気がする。

「開いたー?」
「ああ。開いたよ」

 リリムに答えて、宝具を持って皆の所に戻る。

「これが今回の宝具ですか?」
「なんか光ってない?」

 皆が宝具に手を伸ばし、宝具の効果を知っても特にリアクションは無かった。まぁうん。気持ちは分かる。光るだけの石だもんね。

「これって小さいけどリビングやお風呂場にあるのと同じよね?」

 そういえば館にも光る石があったな。照明として使われていた。

「間違いなく便利ではありますね」
「ああ。かなり有用だ。水に濡れても問題ないし、燃料もいらない。火を使わないから危険もない」
「危険?」
「火は危ないからねー」

 明かりは欲しいけど火は使えない状況というのは、実はけっこうある。例えば坑道だ。粉塵やガスが充満している空間で火なんて使えない。爆発しちゃうからね。あとは船なんかもそうだ。この世界の船は、木造船だ。万が一火事になったら終わりなので、火の扱いには慎重の上に慎重を重ねている。

「この宝具はどうしましょう?売りますか?」

 間違いなく高値で売れるだろう。だが、手放すのは惜しい気もする。

 結局、光る石は自分たちで使うことにした。売ることはいつでもできるからね。それに、私が金貨500枚をぶち込んだので、パーティの活動資金は潤っている。急いで売る理由もない。結論が出たところで、私たちはダンジョンの探索を続けるのだった。
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