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072 神様と爆弾発言

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 私は、両隣に座るミレイユとディアネットの太ももをゆっくりと摩り上げる。

「んっ。もー、ここではダメよ」
「恥ずかしい…」
「すまん、すまん」

 夕食前。リビングのソファーでミレイユとディアネットの3人でいちゃいちゃ寛いでいると、エレオノールとリリムがリビングに姿を現した。私たちの姿を見つけると、リリムが笑顔を浮かべて、スキップのように飛び跳ねながらやって来る。リリムの大きな胸がゆっさゆっさと弾み、ついついそちらへと目が奪われてしまう。

「すご…」

 ミレイユも圧倒されたようにリリムの胸を見て呟く。そして、今度は自分の胸を見下ろして悲しそうにため息を吐いた。ミレイユ、私はミレイユの小さな胸も好きだよ。

「3人とも仲良しだねー」

「まぁな」

 ミレイユとディアネットの2人は、私にぴったりと寄り添うように座って、私の腕を取って抱いている。仲良しと言うよりも、恋人のようと言った方が正確かもしれない。実際、2人は私の恋人だしね。

「もしかして、付き合ってるの?」

 リリムがニヤニヤと笑いながら、冗談めかしに訊いてくる。本気で付き合っているとは思っていないような口ぶりだ。

「えっと、その……」

 ミレイユが少し顔を赤くして言いよどむ。素直に付き合っていると認めることが恥ずかしかったのかな。あるいは、ハーレムだと告白することに戸惑いを覚えたかもしれない。

 複数人と付き合ったり結婚する。いわゆるハーレムは、認められてはいるが、少数派だ。ましてや、私たちは女同士。同性愛も認められてはいるが、少数派であることには変わりはない。同性愛者のハーレム。私たちは、マイノリティーの中のマイノリティーなのだ。

 もしかしたら、理解は得られないかもしれない。パーティの絆を重んじるミレイユが言い出せないのも無理はないな。このことが原因でパーティの絆に罅が入ることを恐れたのだろう。

 これに関しては、私にとっても頭の痛い問題でもある。エレオノールやリリムが、同性愛者のハーレムに理解を示してくれればいいのだが……。もし、理解を得られなかった場合は、パーティの解散もありえる。

 こういうセンシティブな問題は、時間をかけてゆっくりと周囲を慣らしていった方が良いだろう。エレオノールとリリムには、同性愛者のハーレムが受け入れられるようになるまで、私たちがハーレムを作っていることは、黙っていた方が良いかもしれない。

「もう、リリム。あまり、からかって困らせてはいけませんよ」

 エレオノールがリリムをたしなめるように言う。

「はーい。冗談だって、ジョーダン。ごめんね」

 リリムがペロッと舌を少し出して、片目を瞑ってウィンクをして謝る。てへぺろだ。やってる奴を初めて見たな。

 なんとか話が一段落したところで、ディアネットが口を開く。

「私たちは、ハーレム…」

 え!?言っちゃうの!?

「「………え?」」

 ディアネットの爆弾発言に、時が止まったかのように沈黙が流れた。

あるじはルー。私とミレイユは、ルーと付き合ってる…」

 ディアネットが全部言っちゃった。どうしよう?誤魔化すか?

「ちょっとディア!?」

 ミレイユが素っ頓狂な声を上げる。その酷く慌てた様子は、ディアネットの言葉に真実味を持たせるだけだ。今更冗談でしたと誤魔化すのも苦しくなってきたな。どうしよう?

「ウソ…」
「ハーレム…本当なのですか…?」

 リリムとエレオノールが、信じられないものを見たようなポカンとした表情を浮かべている。間抜け面と言ってもいいのだが、2人とも顔が良いからか、そんな表情をしても愛嬌があるだけだ。美人って得だね。

「ちちち違うのよ!わ、私たちは、その…えっと……」

 ミレイユが慌てて否定しようとするが、その態度がディアネットの言葉が真実であると雄弁に語っていた。これはもう誤魔化せないな。

「本当だよ。私は、ディアとミレイユの2人と付き合っている」

 私は素直に白状することにした。

「ルーまで……」

 私が白状したことによって、もう言い逃れはできないと悟ったのか、ミレイユが大人しくなる。その様子を見て、エレオノールとリリムは、これが狂言ではないといよいよ理解したようだった。

「それは、その……おめでとうございます…?」

 意外にも、エレオノールからは祝福が貰えた。その顔には嫌悪感のような否定的な感情は見えない。しかし次の瞬間、何かに気付いたようにハッとした表情でミレイユを見た。

「し、しかし、ミレイユは良いのですか?貴女はマールの信徒でしょう?」
「それは……その、好きになっちゃったんだから仕方ないっていうか……」

 ミレイユがモジモジと恥ずかしそうにエレオノールに答える。

「一応私も確認してみたけど、マール様はハーレムを禁じてるわけではないわよ。だから大丈夫!」
「なんという……」

 なぜかエレオノールがガックリと肩を落とす。これは……私たちのハーレムを受け入れてくれたと見ていいのか?微妙なところだな。

「……い」

 それまで沈黙を保っていたリリムが何かを呟く。そうだった、リリムは私たちのハーレムに対してどう思っているのだろう?

 最悪の場合、リリムがパーティを抜ける可能性もある。できれば受け入れて欲しいが……。

「ズルい!」
「「「はぁ?」」」

 ズルいとはどういうことだ?

「ズルい、ズルい、ズルいよ!3人だけでハーレムなんて!あーしも!あーしも入れてー!」

 リリムは、膝を折って私の腰に抱きついてきた。その深い藍色の瞳に涙を浮かべて、上目遣いで私を見る姿は、とても私の中の嗜虐心を煽る。無性にいじめたくなる姿だ。

 リリムの懇願ともいえる態度に、私はディアネットを見た。ディアネットは、私の視線に気が付くと、コクリと頷く。パーティメンバーを全員ハーレムに入れたい彼女にとって、リリムの申し出は断る理由が無い。

 ディアネットの了承を得ると、今度はミレイユの方を向く。ミレイユは、少し迷った様子を見せたが、最終的には諦めたように頷いた。恋愛は1対1が普通と考える彼女にとって、ハーレムのメンバーが増えることに抵抗があったのかもしれない。後でミレイユのケアしておかないとな。

「あーしも入れてー!なんでも、なんでもするからー!」
「いいよ。私たちはリリムを歓迎しよう」

 リリムの言う「なんでも」が、いったいどの程度なのか試してみたい欲求を抑え、私はリリムに答える。

「やったー!」

 リリムが、飛び跳ねて喜びを爆発させる。その様子に嘘は見られない。本気で喜んでいるように見える。

 考えてみれば、リリムの信仰している神はワールディー。私だ。私は、ハーレム容認派と言うよりも、実際に神話でもハーレムを作ちゃった神なので、もしかしたら、そのあたりもリリムの思想に影響を与えていたのかもしれない。なんにせよ、リリムが私たちのハーレムを受け入れてくれてよかった。まさか自分から飛び込んでくるとは思わなかったが。

「これからよろしくね!」
「うむ」
「こちらこそ…」
「その、よろしくね」

 話が一段落したところで、皆の視線が自然とエレオノールへと集まった。これでハーレムに入っていないのは、エレオノール1人となった。もしかしたらエレオノールも……。そんな期待の混ざった視線だ。

「な、何ですか?」

 エレオノールがたじろぐ様子をみせつつ問いかけてくる。

「エルもどう…?」

 さすがディアネットだ。訊きにくいことを直球で訊いてにいく。

「わ、わたくしは……」

 エレオノールはハーレムに入るのか、入らないのか。自分以外が私のハーレムに入ってるこの状況を許容できるのか否か。エレオノールの答えは……。

「わたくしは……」
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