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004 出会い

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「は、はい!今出ます!」

 私は急いで木のトンネルから抜け出した。斬られるなんて嫌だ!ゲームではこんなイベント無かったのに、なんで!?

 今まで暗い所に居たからか、外の光が眩しい。視界が一瞬ホワイトアウトする。少しして、ようやく光に目が慣れると、そこは木の目隠しに覆われた屋根付きのテラスがある場所だった。テラス席には、鳥と二人の男の子の姿が見える。一人は黒髪の男の子だ。椅子に座って偉そうに足を組んでいる。もう一人は濃い青色の髪の男の子だ。黒髪の子を守る様に一歩前に出て剣を抜いている。怖っ。

 待って、この光景、イベントスチルで見たことある!ってことはこの二人が黒王子と青羊?あー、たしかに面影あるかも。座ってこちらを楽しそうに見ている黒髪黒目の男の子が黒王子、シュヴァルツ。オレ様キャラの第二王子だ。こちらに剣を突きつけている藍髪青目の男の子が青羊、ゲオグラム。辺境伯嫡子の本当は気弱な少年だ。二人ともまだ14歳だし、イケメンだけど幼さが目立って可愛らしい。

「貴様、何者だ?」

 ゲオグラムが冷たく言い放つ。見た目冷酷そうで怖いけど、この冷たいマスクの下に気弱な素顔があると思うと怖さが半減する。それでも怖いけど!剣突きつけられてるし!私は急いで立ち上がり、スカートを摘まみ上げ、右足を引いて、左足を軽く折る。

「マリアベル・レ・キルヒレシアでございます」

 お辞儀はしない。むしろ胸を張る。これがこの国での貴族女性の挨拶だ。

「ん?キルヒレシア?」

 シュヴァルツがキルヒレシアの名に反応する。そうだね。ゲオグラムの家名もキルヒレシアだ。ゲオグラム・ラ・キルヒレシアがフルネーム。たしか、お爺様の兄弟の孫だから、私とゲオグラムは、はとこになるはずだ。ちなみにシュヴァルツのフルネームは、シュヴァルツ・シド・ユースティティアである。

「ゲオグラムの親族か?」

 シュヴァルツがゲオグラムに問う。ゲオグラムはその綺麗に整えられた双眸を歪めて答える。

「いえ、分家の者ではありません。おそらく、独立した男爵家の娘でしょう。この娘が本当のことを言っているのなら、ですが。それで、なぜ貴様がここに居る?」

 ゲオグラムが質問してくる。相変わらず剣は突きつけられたままだし、かなり怖い。口調も刺々しいし。本当に気弱なのか自信が無くなってくる。

「鳥に、帽子を取られてしまって…追いかけていたら、ここへ」

「はははっ!帽子の為に、服を汚してまでわざわざこんな所まで来たと言うのか」

 何が面白いのか、シュヴァルツが笑っている。

「ゲオグラム、剣を収めよ。この間抜けが刺客とは思えん」

「ですが……分かりました、殿下」

 剣を収めてくれたのはありがたいけどさ、間抜けはひどいんじゃない?それに、刺客って何よ!、私はそんなんじゃないわよ!

「それで、帽子というのはこれか?」

 シュヴァルツが大きなフクロウのような鳥の前に転がっていた私の帽子を摘まみ上げて示す。

「はい。わたくしの帽子です」

「そうか。ベグウィグが無礼を働いたようだな。許せ」

「わとと」

 シュヴァルツがこちらに投げて寄こした帽子を受け取る。危うく落とすところだった。投げる前に一言あっても良いと思う。それに許せって随分と上からな言葉だ。王子だから実際偉いんだけどさ。あと、鳥の名前ベグウィグだった。ヘディングじゃなかった。ゴメンね鳥さん。君にはかなり期待してるから、頑張って!

「では、もう用は済んだな。立ち去れ。ここに殿下がいらっしゃることは他言無用だ。分かったな?分からない場合は…」

 そう言ってゲオグラムが剣の柄に手を当てる。え?私斬られるの?私は分かったことを伝える為に高速で頷く。

「まあ待てゲオグラム。鞭ばかりでは人の働きは鈍い。ちゃんと飴も用意しなければ。マリアベルだったか?オレがここに居るのは皆には内緒だ。その代り、お前にはここに来てオレと会うことを許可してやろう」

「殿下!?」

 ナチュラルに自分と会うことが飴になるって思ってるあたり、シュヴァルツってヤバイわよね…。すごいオレ様って言うかナルシストって言うか…。でも、これもゲームの通りだ。ここで何度も会ってシュヴァルツとヒロインちゃんは距離を縮めていくのである。

 私にとってもこの申し出はありがたい。むしろ、これを狙ってベグウィグを追いかけてこんな所まで来たのだ。こうなってくれないと困る。後は、ここでシュヴァルツと会って好感度を上げて、シュヴァルツと第一王子の仲を取り持ち、二人が仲直りするまでイベントを進めるだけだ。

 でも、私にシュヴァルツと付き合うつもりはない。略奪愛ってこの国ではタブーなのだ。それに、オレ様な正確のシュヴァルツって見てる分にはカッコイイけど、実際付き合うのって大変そうだしね。

「それで良いな?」

「はい、殿下。分かりましたわ」

 私は恭しく礼をした。
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