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43 ??ドラゴン

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「クー♪」
「ふふふっ。ここが気持ち良いんですか?」
「ク~♪」

 穏やかな昼下がり。お庭の木陰に用意されたテラス席で、僕はアンジェリカの膝の上でなでなでされていた。頭や背中、特に顎の下を撫でられるのが気持ちが良い。僕が猫だったら喉を鳴らしているところだ。

「ここが気持ち良いみたいですね」
「ク~♪」

 アンジェリカが僕を優しい目で見つめ、繊細な手つきで僕の顎の下を撫でる。僕はアンジェリカにお腹を見せるようにゴロンと膝の上で寛いで、そんな僕たちの様子を、メイドさんたちが微笑ましそうに見ている。とても優しい穏やかな空間が展開されていた。

 僕はそんな穏やかな時間に、とても幸せを感じていた。

 いや、幸せなのは今だけじゃない。僕はこの離宮での暮らしをとても気に入っていた。アンジェリカをはじめ、メイドさんたちが皆、僕をちやほやと構ってくれるのだ。ご飯も美味しいし、美少女たちに囲まれて、僕はとても楽しい幸せな時間を過ごしている。

「ルーのおかげで、この季節でも外で快適に過ごせますね。ルーの魔法はすごいです」
「クー!」

 アンジェリカに褒められて気分を良くする僕。

 この周囲一帯は、僕が魔法で気温を少し下げている。今の季節は夏。僕はそんなに暑さを感じないけど、アンジェリカやメイドさんは暑さを感じるらしい。僕が魔法を使う前は、額に汗を浮かべていたメイドさんも居たほどだ。夏に長袖にロングスカートだもんね。そりゃ暑いわけだ。

 どうやらこの国では、素足を人目にさらすことは、はしたないとされているらしく、アンジェリカもメイドさんたちも、夏でもニーハイソックスをガーターベルトで留めて、ロングスカートが基本だ。

 暑いならもっと涼しい恰好すればいいのに。お姫様やそのお付きのメイドさんともなると、見栄え重視で涼しい恰好もできないのだから大変だ。夏でもそんな格好しているのものだから熱射病が心配になる。

 そこで僕は、魔法で冷たい風を吹かせることで、周りの気温を下げることにした。密閉空間じゃないから効果は限定的だけど、それでも少しは快適になったらしい。やってよかった。

「ク~…」

 アンジェリカにお腹を撫でられていると、なんだか眠たくなってきた。

 昼食も食べ終えて、お腹いっぱいの麗らかな昼下がり。美少女の柔らかくて温かい膝の上でお昼寝とか、なんて贅沢なのだろう。僕の中で、このまま眠気に身を委ねてしまいたい欲求と、もっとアンジェリカとの時間を楽しみたい欲求がぶつかり合う。

 どうしようかな?

 そんなことを眠気に支配されつつある頭で考えている時だった。

「ルー……?」

 僕の展開している冷風の魔法が乱れた。そこだけ切り取られたかのように冷風の魔法が遮られる空間がいきなり現れた

 何だろう?

 目を向けると、そこには黒い長方形が在った。何だアレ?

 まるでそこだけ墨で塗り潰したかのように、あるいは深淵へと続く穴が開いたかのように、横1メートル、縦2メートル程の黒い長方形が突如として現れた。厚さは……分からない。光を全て吸収しているのか、真っ黒すぎて、まるで立体感が無い。

「クァッ!」

 僕はアンジェリカの太ももから跳ね起きると、テラスのテーブルへと着地して身構える。あの黒いのが何かは分からない。分からないことが怖い。アレはいったい何なんだ……?

「ルー?どうしたのですか?あら、アレは……」
「姫様ッ!」

 アンジェリカやメイド長も気が付いたようだ。メイド長の切迫した声が事態の悪さを物語っているように感じた。

 どうしよう?

 自分だけでも助かりたいのなら、このまま飛んで逃げるのもアリだと思う。どうせ、いつかはこの離宮から逃げ出すつもりだったのだ。それが今になるだけである。でも……。

 ちらりと後ろを振り返ると、恐れからか顔を強張らせたアンジェリカやメイドさんたちの姿が見える。もしあの黒いものが危険なものなら、彼女たちをこの場に残していくのは……。

 僕が逡巡している間に、黒い長方形に動きがあった。黒い長方形から白く細いものが姿を現す。

「クー!」

 僕はその白いなにかを睨み付けながら吠える。僕はアンジェリカやメイドさんたちを守ることに決めた。大丈夫。僕は強い……はずだ。空も飛べるし、魔法も使えるし、ドラゴンブレスだってできる。僕は強いドラゴンなのだ……と思う。思い込む。だから大丈夫だ、大丈夫。あの白いのだって、なにも敵だと決まったわけじゃないし。案外、ただのお客さんかも? でも、メイド長がアンジェリカを庇うように抱きしめてるんだよなぁ……。招かれざるお客さんの可能性が高そうだ。

 黒く長方形に切り取られた闇から白い人影が姿を現す。人影が現れると同時に、長方形の闇は姿を消した。

「クァッ!?」

 絶世の銀の美少女がそこに居た。輝く銀の長い髪を靡かせ、白い豪奢なドレスを着た線の細い儚げな白い肌の美少女だ。その青い澄んだ瞳が僕を映すと、嬉しくて堪らないといったまるで大輪の花が咲くような笑顔を浮かべる。

 彼女と目が合った瞬間、僕の脳裏にパッと浮かぶものがあった。まさか彼女は……。

「お久しぶりですね、ルシウス」

 その声に、僕の気付きは確信へと変わる。あぁ……やっぱり彼女は……。

「クー!」

 ママドラゴン!
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