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35 ぱくぱくドラゴン

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 食卓に着くと、メイドさんたちの手によって次々と料理が運ばれてくる。テーブルの対面に座るアンジェリカの前には1つのお皿が、対する僕の前には無数のお皿が並ぶ。アンジェリカはコース料理のように一品ずつ料理が運ばれてきて、僕はまるでアラカルトのように一品料理がズラリと並ぶのが定番になりつつある。

「本日は、ハーゲン翁より贈られた海の魚を使った料理になります」

 たしかに、言われてみると肉料理もあるけど、魚料理が多い。ハーゲン翁って、たしかあのハゲたおじいちゃんだよね。塩漬けや氷漬けの魚を大量に贈ってくれた人だ。今日は魚がメインの夕食のようだ。

「ワインはいかがいたしましょう?オススメはこちらの白ワインです。甘口で飲みやすいですよ」
「クー」

 僕は頷くことで白ワインを貰うことにした。僕はあまりワインには詳しくないけど、魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワインが合うと聞いたことがある。メイドさんのオススメだし、間違いはないだろう。

 白ワインを注がれたワイングラスを両手で抱え込むようにして受け取る。ふわりと香る酒精を含んだ甘いトロピカルな香り。ワインなのだから、原料はブドウのはずだけど、ブドウというより熟したメロンのような香りがするのは、ちょっと不思議だ。

 この国では、お酒は大人になってからという法律は無いのか、アンジェリカも普通にワインを飲んでいるし、赤ちゃんドラゴンである僕にもワインを勧められる。

「では、いただきましょうか」
「クー」

 アンジェリカが食前の祈りを終えて、食事スタートだ。

「まずはこちらはいかがでしょう? スモークサーモンのカルパッチョになります」
「クー」

 僕は頷いて食べることをクレアに伝える。今日の僕の給仕係はクレアだ。僕は体が小さくて、手足も短いから、満足にカトラリーを扱うことができない。なので、メイドさんが僕の食事のサポートをしてくれるのだ。

「ルー様、あーん」
「クァー」

 最初は美人メイドさんの“あーん”にドキドキしたけど、今ではすっかり慣れてしまったな。僕はエサを待つ雛鳥のように口を大きく開ける。

 パクッとカルパッチョを頬張ると、最初に感じるのは柔らかな酸味だ。酢になにか混ぜているのかな? 口当たりがまろやかで、清々しい酸味だ。

 噛めば、ねっとりとしてスモーキーなサーモンの旨味が口いっぱいに広がる。野菜のシャキシャキとした歯応えと、僅かな辛みもいいアクセントだ。美味しい。

 僕はカルパッチョを飲み込むと、すかさず白ワインを舐める。

 白ワインは、豊かな甘みのあり、酸味や苦みなどは丸くまろやかで、とても飲みやすいワインだった。酒精は感じるけど、ジュースみたいな感じだ。ワイン初心者の僕にも美味しいと思えるワインだった。酒精を含んだ甘い香りが鼻を抜けるのも心地が良い。後味もキレが良い。カルパッチョとの相性も良い気がする。

「クー…」

 思わずため息が漏れる美味しさだ。

「ルー様、こちらの料理、何点お付けしましょう?」

 赤毛のメイドさん、ティアが僕に尋ねてくる。料理に点数を付けて、僕の好みを把握したいらしい。

「クー」

 僕はティアに指を4本立てて見せる。このカルパッチョはたしかに美味しいけど、僕はお肉の方が好みかな。

「4点でございますね」

 ティアが手に持ったバインダーに点数を書き込んでいる。後で料理長に見せるらしい。

「ルー様、次はこちらはどうでしょう?白身魚のムニエルになります」

 僕はクレアに頷くことで食べる意思を伝える。

「ルー様、あーん」
「クァー」

 パクッと頬張ると、サクッと衣が弾け、豊かなでまろやかなバターの風味が口の中に広がる。白身魚自体の味は淡泊だ。それを補うかのように、塩と胡椒、そしてなにかのスパイスなのか、まるでカレーのような複雑でスパイシーな味がする。サクサクの衣の食感が楽しく、スパイシーな味の中に、白身魚のしっとりとした味わいが感じられる。白身魚の淡泊で、しかし軽やかな甘みが、スパイスによってはっきりと際立っている。美味しい。

 ムニエルと聞いたから、シンプルな塩胡椒とレモンの味を想像していたけど、予想外の味だった。これはこれで美味しい。

 でも、これも4点かな。僕はティアに指を4本立てて見せる。

「次はこちらのトラペッツィーニはいかがでしょう? クリームチーズとスモークサーモン、キャビアの一品になります」

 クレアが手に持っているのは、クラッカーの上に白いクリームチーズ、ピンクのサーモン、そして黒いツブツブが乗ったカラフルで目にも楽しい料理だった。この黒いツブツブがキャビアだよね? キャビアなんて初めて食べるよ。いったいどんな味がするんだろう?

「ルー様、あーん」
「クァー」

 最初に感じたのは、クラッカーの香ばしい小麦の味だ。噛むとサクッと軽やかに砕けて、ねっとりとしたクリームチーズとサーモンが顔を出す。そしてキャビア。キャビアは噛むとプチプチと潰れる。なんとも食感が楽しい。

 クラッカーの小麦の香ばしさとクリームチーズのまろやかな味わい、サーモンのねっとりとしてスモーキーな味わい。これだけでも十分美味しいけど、キャビアの塩味が味をギュッと引き締めている。キャビアは、僕の想像以上に塩辛かった。でもただ塩辛いだけじゃない。魚卵特有の濃くて深い味わい独特の味わいがある。なんだか、キャビアによって味が1つステップアップしたような気さえする。これは高級食材と云われるだけはあるなぁ。すごく美味しい。

 独特な味わいだから好き嫌いが出そうだけど、僕は大好きだ。

「ルー様、何点お付けしましょう」
「クー」

 僕は指を5本立てて見せる。文句なしの5点満点だ。

「ルーもキャビアが気に入ったみたいですね」
「クー!」

 僕はアンジェリカの言葉に力強く頷く。

「贈ってくださった先生に感謝しないといけませんね。今度一緒に礼状を書きましょうね」
「クー」
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