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26 アンニュイドラゴン
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「美しいとは何なのでしょうね……?」
そう、物憂げな様子で呟く美少女、アンジェリカ。僕が言葉を話せたら「美しいのは君だよ」とか歯の浮きそうなセリフを言ってしまいそうなほど、今のアンジェリカはアンニュイな魅力に溢れていた。
「クー?」
それにしても、アンジェリカはいったいどうしたのだろう? なんでいきなりアンニュイになっちゃったんだ?
「ルー様、あーん」
「クァー」
僕はクレアの給仕でケーキを食べながらアンジェリカの答えを待つ。ケーキ美味しい。
「実は、今日の教養のお勉強で陶磁器について学んだのですけど……」
この国では、陶器より磁器の方が価値が高いとされているらしい。その中でも白磁が、その白磁の中でも青色で緻密な模様を書き込まれた物が尊ばれている。形も左右対称で端正な物が美しいとされているらしい。
丁度今使っているケーキを載せたお皿がそうだ。白地で淵に青で模様が書き込まれた丸い白磁。日本だとどうだろう? 1000円も出せば買えるんじゃないかな? 下手をすれば100円均一で買えるかもしれない。そんなお皿だが、この国ではお姫様が使う高級品だ。
「ですが、白磁の主な輸出国である南の国では、歪んだ形の陶器が尊ばれているのです……」
歪んだ形の陶器……?
僕はあまり陶磁器についてあまり詳しくないんだよなぁ……。というか、美術全般について詳しくない。世界的な巨匠の絵の良さも分からないし、現代アートとか意味不明だと思っていた人間だった。
でも、どこかで聞いた覚えがあるだけで確かな情報じゃないけど、たぶん流行が一周しちゃったんだと思う。特にファッションの世界とかよくあることらしいんだけど、美術の世界にも流行り廃りがあるという話だった。
そして、その流行は何年かのペースで繰り返すものらしい。一度流行って廃れたものが、もう一度脚光を浴びるのだ。流行の最先端が、昔、流行ったものによく似ているものだったというのはよくある話らしい。
まぁ僕はその南の国のことも、ましてやこの世界のこともまだ全然知らないからなにも分からないけどね。僕の推測も間違っている可能性の方が高いし。
「昔は南の国でも端正な磁器が尊ばれていたのですが……同じ物でも時代や国によって価値がこんなにも変わってしまうのですね……その全てを覚えなくてはいけないので大変です」
そう言って深いため息を吐くアンジェリカ。
たしかに、お姫様なら国外の賓客と会う機会もあるだろうし、その賓客ごとに出す料理や料理を盛るお皿も相手の好みに合わせて変える必要もあるだろう。その全てを把握しなくてはいけない立場にあるアンジェリカはとても大変だと思う。お姫様ってもっと優雅なものだと思っていたけど、お姫様ならではの悩みってあるんだなぁ……。
「クー……」
こういう時に慰めの言葉でも言えたら良いのだけど、僕には鳴き声しか出せない。そんな自分がひどくもどかしい。
「ふふっ。ありがとうございます」
でも、気持ちは伝わったのか、アンジェリカが笑顔を見せる。やっぱりアンジェリカには笑顔が一番似合う。笑っているアンジェリカが好きだ。
「ごめんなさいね、こんな話。ルーには退屈だったでしょう?」
「ウーウー」
僕は首を横に振って“そんなことないよ”と態度で示す。話を聞くだけでアンジェリカの気が晴れるなら、僕はいくらでも話を聞く覚悟がある。
「ルー様、あーん」
話が一段落したと思ったのだろう。クレアが再び“あーん”を再開してくれる。
「クァー」
僕は大きく口を開けてパクッとケーキを頬張った。やっぱり美味しい。特に果物のお酒漬けであるルムトプフが美味しい。僕の好きな味だ。生クリームとケーキとの相性も抜群で、いくらでも食べられそうだ。
「おかわりはどうなさいますか?」
「クー!」
僕は元気に頷く。丁度、小腹も空いていたし、お昼ご飯までまだ時間がある。おかわりもぺろりと食べてしまおう。
僕は、またケーキに生クリームとルムトプフをトッピングしてもらう。ジャムもいろんな種類があって気になるけど、ルムトプフが美味しすぎる。
「ルー様、あーん」
「クァー」
うん。やっぱり美味しい。ルムトプフ最高!
「ふふっ。ルーを見ていると、なんだか癒されますね」
いつの間にか、アンジェリカが僕を優しい目で見ながら微笑んでいた。なぜか、ちょっと恥ずかしい。
今の僕はかっこかわいい猫サイズのドラゴンなので、小動物的なかわいさがあるのかもしれない。その優しい視線はなんだかムズムズするけど、アンジェリカが癒せるならば本望だ。アニマルセラピーとかあったし、そんな感じなのかもしれない。
だが、そんな優しい空間も長くは続かない。
「ルー様、姫様、ご歓談中失礼致します。姫様、ハーゲン翁がそろそろお見えになるそうです」
メイド長のマリアが、ハーゲン翁の来訪を告げる。ハーゲン翁ってたしか、あのハゲたおじいちゃんだよね。なんと間の悪い……。
「もうそんな時間ですか。応接間にお通ししてください」
ハーゲン翁の来訪は予めアンジェリカに知らされていたらしい。すぐにメイドさんに指示を出したアンジェリカが、僕を見て寂しそうな顔をする。
「ごめんなさいね、ルー。わたくしはまたお勉強です」
そういえばアンジェリカは、あのハゲたおじいちゃんを“先生”って呼んでいたね。家庭教師のような感じなのかな?
気になったんだけど、アンジェリカって学校とかどうしてるんだろう? いや、そもそもこの国に学校ってあるのかな?
「良い子にしているのですよ」
僕の頭を撫でると、アンジェリカはメイドさんたちを引き連れて行ってしまった。残っているのは、僕とクレア、ティアだけだ。
「ルー様、とりあえず食べちゃいましょう。あーん」
「クァー…」
生クリームとルムトプフのトッピングされたケーキはたしかに美味しい。けど、1人で食べるケーキは、どこか味気ない気がした。
そう、物憂げな様子で呟く美少女、アンジェリカ。僕が言葉を話せたら「美しいのは君だよ」とか歯の浮きそうなセリフを言ってしまいそうなほど、今のアンジェリカはアンニュイな魅力に溢れていた。
「クー?」
それにしても、アンジェリカはいったいどうしたのだろう? なんでいきなりアンニュイになっちゃったんだ?
「ルー様、あーん」
「クァー」
僕はクレアの給仕でケーキを食べながらアンジェリカの答えを待つ。ケーキ美味しい。
「実は、今日の教養のお勉強で陶磁器について学んだのですけど……」
この国では、陶器より磁器の方が価値が高いとされているらしい。その中でも白磁が、その白磁の中でも青色で緻密な模様を書き込まれた物が尊ばれている。形も左右対称で端正な物が美しいとされているらしい。
丁度今使っているケーキを載せたお皿がそうだ。白地で淵に青で模様が書き込まれた丸い白磁。日本だとどうだろう? 1000円も出せば買えるんじゃないかな? 下手をすれば100円均一で買えるかもしれない。そんなお皿だが、この国ではお姫様が使う高級品だ。
「ですが、白磁の主な輸出国である南の国では、歪んだ形の陶器が尊ばれているのです……」
歪んだ形の陶器……?
僕はあまり陶磁器についてあまり詳しくないんだよなぁ……。というか、美術全般について詳しくない。世界的な巨匠の絵の良さも分からないし、現代アートとか意味不明だと思っていた人間だった。
でも、どこかで聞いた覚えがあるだけで確かな情報じゃないけど、たぶん流行が一周しちゃったんだと思う。特にファッションの世界とかよくあることらしいんだけど、美術の世界にも流行り廃りがあるという話だった。
そして、その流行は何年かのペースで繰り返すものらしい。一度流行って廃れたものが、もう一度脚光を浴びるのだ。流行の最先端が、昔、流行ったものによく似ているものだったというのはよくある話らしい。
まぁ僕はその南の国のことも、ましてやこの世界のこともまだ全然知らないからなにも分からないけどね。僕の推測も間違っている可能性の方が高いし。
「昔は南の国でも端正な磁器が尊ばれていたのですが……同じ物でも時代や国によって価値がこんなにも変わってしまうのですね……その全てを覚えなくてはいけないので大変です」
そう言って深いため息を吐くアンジェリカ。
たしかに、お姫様なら国外の賓客と会う機会もあるだろうし、その賓客ごとに出す料理や料理を盛るお皿も相手の好みに合わせて変える必要もあるだろう。その全てを把握しなくてはいけない立場にあるアンジェリカはとても大変だと思う。お姫様ってもっと優雅なものだと思っていたけど、お姫様ならではの悩みってあるんだなぁ……。
「クー……」
こういう時に慰めの言葉でも言えたら良いのだけど、僕には鳴き声しか出せない。そんな自分がひどくもどかしい。
「ふふっ。ありがとうございます」
でも、気持ちは伝わったのか、アンジェリカが笑顔を見せる。やっぱりアンジェリカには笑顔が一番似合う。笑っているアンジェリカが好きだ。
「ごめんなさいね、こんな話。ルーには退屈だったでしょう?」
「ウーウー」
僕は首を横に振って“そんなことないよ”と態度で示す。話を聞くだけでアンジェリカの気が晴れるなら、僕はいくらでも話を聞く覚悟がある。
「ルー様、あーん」
話が一段落したと思ったのだろう。クレアが再び“あーん”を再開してくれる。
「クァー」
僕は大きく口を開けてパクッとケーキを頬張った。やっぱり美味しい。特に果物のお酒漬けであるルムトプフが美味しい。僕の好きな味だ。生クリームとケーキとの相性も抜群で、いくらでも食べられそうだ。
「おかわりはどうなさいますか?」
「クー!」
僕は元気に頷く。丁度、小腹も空いていたし、お昼ご飯までまだ時間がある。おかわりもぺろりと食べてしまおう。
僕は、またケーキに生クリームとルムトプフをトッピングしてもらう。ジャムもいろんな種類があって気になるけど、ルムトプフが美味しすぎる。
「ルー様、あーん」
「クァー」
うん。やっぱり美味しい。ルムトプフ最高!
「ふふっ。ルーを見ていると、なんだか癒されますね」
いつの間にか、アンジェリカが僕を優しい目で見ながら微笑んでいた。なぜか、ちょっと恥ずかしい。
今の僕はかっこかわいい猫サイズのドラゴンなので、小動物的なかわいさがあるのかもしれない。その優しい視線はなんだかムズムズするけど、アンジェリカが癒せるならば本望だ。アニマルセラピーとかあったし、そんな感じなのかもしれない。
だが、そんな優しい空間も長くは続かない。
「ルー様、姫様、ご歓談中失礼致します。姫様、ハーゲン翁がそろそろお見えになるそうです」
メイド長のマリアが、ハーゲン翁の来訪を告げる。ハーゲン翁ってたしか、あのハゲたおじいちゃんだよね。なんと間の悪い……。
「もうそんな時間ですか。応接間にお通ししてください」
ハーゲン翁の来訪は予めアンジェリカに知らされていたらしい。すぐにメイドさんに指示を出したアンジェリカが、僕を見て寂しそうな顔をする。
「ごめんなさいね、ルー。わたくしはまたお勉強です」
そういえばアンジェリカは、あのハゲたおじいちゃんを“先生”って呼んでいたね。家庭教師のような感じなのかな?
気になったんだけど、アンジェリカって学校とかどうしてるんだろう? いや、そもそもこの国に学校ってあるのかな?
「良い子にしているのですよ」
僕の頭を撫でると、アンジェリカはメイドさんたちを引き連れて行ってしまった。残っているのは、僕とクレア、ティアだけだ。
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