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169 死にゆく者
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バウムガルテン領、第一砦。レンガ造りの作戦室の中。
「ご報告いたします! アルトマイヤー将軍率いる国軍の第一陣が、東方辺境領に入りました! これより各領地の領軍と合同で防衛線を展開します!」
「早いですね、さすがお爺様です」
「すごい!」
テレパスのギフトを持つ伝令兵の報告に、カサンドラと彼女の護衛であるズザネは感嘆の溜息を漏らす。
「バウムガルテンに増援が来るのはいつになるでしょうか?」
「国軍がバウムガルテン辺境伯領に到達するのは、四日後と思われます」
「四日……」
なんとしてもあと四日はバウムガルテン領で踏み止まらなくてはならない……。
作戦室の外では、争いは激しさを増していた。既に空堀はモンスターの死骸で埋まりつつあり、城門もいつ破壊されるかもわからない状況だ。
カサンドラはホークアイのギフトで得られるまるで鳥観図のような視界では、オークたちが何度も城門に丸太を叩き込み、突破を図ろうとしているのが見えていた。
◇
「門を押さえろ! 上の兵は門の破壊を防げ!」
バウムガルテン領軍の総隊長であるアヒムは、声を枯らして兵を鼓舞する。しかし、それで劣勢がひっくり返るわけではなかった。
もう何度目かわからない爆音が響いて門を破らんとしていたオークたちを吹き飛ばす。しかし、いくらオークたちを吹き飛ばそうと、また新たな破城槌を持ったオークたちが現れるだけだった。
モンスターたちによる命を無視した攻勢に、バウムガルテン軍は苦戦を強いられていた。
死兵とはかくも恐ろしいのか……。
アヒムの心に重たいものが広がっていく。
このままでは城門が破壊されるだろう。そうなれば、一気にモンスターたちが雪崩れ込んでくる。それだけは防がねばならない。
「アヒム総隊長! このままでは門が……。兵を下げますか?」
「ザシャ……」
「お早く決断しなければ」
「ザシャ、悪いが、死んでくれ……」
ザシャは一瞬目を見開き、しかし、微笑んでみせた。
ザシャにはわかったのだ。アヒムが一度破壊された門を修理しようとしていることを。
門が破壊された瞬間、こちらから逆に打って出てモンスターを蹴散らし、その間に味方が門を修理するのだろう。既に城門の傍には大工と思われる人々がレンガを持って待機していた。きっとレンガを積んで城門を塞いでしまうつもりだ。
だが、この作戦には穴があることをザシャは見抜いていた。城門が壊れた瞬間モンスターと戦い、蹴散らせる実力がある者が打って出なければいけないこと。そして、城門を塞いでしまうため、その実力者はもう帰ってこれないことも。
アヒムは、ザシャに本当に冗談ではなく死ねと命じているのだ。
「方針が決まっているのなら安心しましたわ」
「すまん……」
「いいえ。総隊長を死なせるわけにはいきませんもの。このザシャ、華やかに散ってみせましょう」
冒険者をしていたからだろうか、ザシャは既に覚悟を決め。いつもの調子でアヒムに応えてみせた。
「旦那様のこと、よろしく頼みますね」
「任された。本当にすまない……」
「今日は死ぬにはいい日ですもの。そんなに謝られては恐縮してしまいますわ」
なんの気負いを見せることなく城門に向かって歩き出すザシャ。しかし、その足は城門にたどり着くことなく止まることになる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいや……」
それは、ザシャがいつか見た木こりの男だった。体中に血の付いた包帯を巻いたその姿は見ているだけで痛々しい。
男は両腕を広げて、ザシャの進行を止めていた。
「オラは弟たちみたいに頭よくねぇから言葉にできねぇけど、坊ちゃんに必要なのは、きっとオラみたいなのじゃなくて、アヒムやお嬢ちゃんみたいなお人なんだ。だから、お嬢ちゃんは死んじゃダメなんだ!」
「そうそう。若ぇのが死ぬのは見てられねぇよ。そういうのはジジイに任してくんろ」
「んだな。オラたちが坊ちゃんが帰ってくるまでバウムガルテンを守らねば」
「坊ちゃんはきっと帰ってくる。そうすりゃ、バウムガルテンはまた甦る。そん時必要なのは、アヒムやお嬢ちゃんだ」
「死ぬのはジジイに任せちゃくれんか?」
木こりの男に呼応するように五人の男が集まっていた。皆、体はボロボロだ。中には立っているのが不思議なくらい大怪我をしている者も居る。
「お前らは……!?」
アヒムは男たちの顔に見覚えがあった。皆、このバウムガルテンで生まれた者たちだ。そして、昔のどうしようもなかったバウムガルテンを知っている者たちだ。ディートフリートの改革をその目で見てきた者たちだ。
「バウムガルテンが残れば、坊ちゃんさえ帰ってくれば、もう安心だ。おっかあやガキどもの心配もいらねえ。もう飢餓に怯えることもねえ。もう自分のガキを捨てるなんて惨めな思いをしなくてもいい。アヒム、そうだろ?」
「ああ……」
気が付けば、十人ほどの男たちがアヒムたちの前に集まっていた。皆、このバウムガルテンの出身だ。彼らは皆、死ぬことを既に受け入れている者特有の朗らかな笑みを浮かべていた。
「ここはオラたちに任せてくれや。オラたちでダメなら、お嬢ちゃんに頼めばいい」
「ああ、達者でな……」
「おう!」
彼らでは成功の可能性は低い。だがアヒムには、彼らの決意を踏みにじることはできなかった。
「ご報告いたします! アルトマイヤー将軍率いる国軍の第一陣が、東方辺境領に入りました! これより各領地の領軍と合同で防衛線を展開します!」
「早いですね、さすがお爺様です」
「すごい!」
テレパスのギフトを持つ伝令兵の報告に、カサンドラと彼女の護衛であるズザネは感嘆の溜息を漏らす。
「バウムガルテンに増援が来るのはいつになるでしょうか?」
「国軍がバウムガルテン辺境伯領に到達するのは、四日後と思われます」
「四日……」
なんとしてもあと四日はバウムガルテン領で踏み止まらなくてはならない……。
作戦室の外では、争いは激しさを増していた。既に空堀はモンスターの死骸で埋まりつつあり、城門もいつ破壊されるかもわからない状況だ。
カサンドラはホークアイのギフトで得られるまるで鳥観図のような視界では、オークたちが何度も城門に丸太を叩き込み、突破を図ろうとしているのが見えていた。
◇
「門を押さえろ! 上の兵は門の破壊を防げ!」
バウムガルテン領軍の総隊長であるアヒムは、声を枯らして兵を鼓舞する。しかし、それで劣勢がひっくり返るわけではなかった。
もう何度目かわからない爆音が響いて門を破らんとしていたオークたちを吹き飛ばす。しかし、いくらオークたちを吹き飛ばそうと、また新たな破城槌を持ったオークたちが現れるだけだった。
モンスターたちによる命を無視した攻勢に、バウムガルテン軍は苦戦を強いられていた。
死兵とはかくも恐ろしいのか……。
アヒムの心に重たいものが広がっていく。
このままでは城門が破壊されるだろう。そうなれば、一気にモンスターたちが雪崩れ込んでくる。それだけは防がねばならない。
「アヒム総隊長! このままでは門が……。兵を下げますか?」
「ザシャ……」
「お早く決断しなければ」
「ザシャ、悪いが、死んでくれ……」
ザシャは一瞬目を見開き、しかし、微笑んでみせた。
ザシャにはわかったのだ。アヒムが一度破壊された門を修理しようとしていることを。
門が破壊された瞬間、こちらから逆に打って出てモンスターを蹴散らし、その間に味方が門を修理するのだろう。既に城門の傍には大工と思われる人々がレンガを持って待機していた。きっとレンガを積んで城門を塞いでしまうつもりだ。
だが、この作戦には穴があることをザシャは見抜いていた。城門が壊れた瞬間モンスターと戦い、蹴散らせる実力がある者が打って出なければいけないこと。そして、城門を塞いでしまうため、その実力者はもう帰ってこれないことも。
アヒムは、ザシャに本当に冗談ではなく死ねと命じているのだ。
「方針が決まっているのなら安心しましたわ」
「すまん……」
「いいえ。総隊長を死なせるわけにはいきませんもの。このザシャ、華やかに散ってみせましょう」
冒険者をしていたからだろうか、ザシャは既に覚悟を決め。いつもの調子でアヒムに応えてみせた。
「旦那様のこと、よろしく頼みますね」
「任された。本当にすまない……」
「今日は死ぬにはいい日ですもの。そんなに謝られては恐縮してしまいますわ」
なんの気負いを見せることなく城門に向かって歩き出すザシャ。しかし、その足は城門にたどり着くことなく止まることになる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいや……」
それは、ザシャがいつか見た木こりの男だった。体中に血の付いた包帯を巻いたその姿は見ているだけで痛々しい。
男は両腕を広げて、ザシャの進行を止めていた。
「オラは弟たちみたいに頭よくねぇから言葉にできねぇけど、坊ちゃんに必要なのは、きっとオラみたいなのじゃなくて、アヒムやお嬢ちゃんみたいなお人なんだ。だから、お嬢ちゃんは死んじゃダメなんだ!」
「そうそう。若ぇのが死ぬのは見てられねぇよ。そういうのはジジイに任してくんろ」
「んだな。オラたちが坊ちゃんが帰ってくるまでバウムガルテンを守らねば」
「坊ちゃんはきっと帰ってくる。そうすりゃ、バウムガルテンはまた甦る。そん時必要なのは、アヒムやお嬢ちゃんだ」
「死ぬのはジジイに任せちゃくれんか?」
木こりの男に呼応するように五人の男が集まっていた。皆、体はボロボロだ。中には立っているのが不思議なくらい大怪我をしている者も居る。
「お前らは……!?」
アヒムは男たちの顔に見覚えがあった。皆、このバウムガルテンで生まれた者たちだ。そして、昔のどうしようもなかったバウムガルテンを知っている者たちだ。ディートフリートの改革をその目で見てきた者たちだ。
「バウムガルテンが残れば、坊ちゃんさえ帰ってくれば、もう安心だ。おっかあやガキどもの心配もいらねえ。もう飢餓に怯えることもねえ。もう自分のガキを捨てるなんて惨めな思いをしなくてもいい。アヒム、そうだろ?」
「ああ……」
気が付けば、十人ほどの男たちがアヒムたちの前に集まっていた。皆、このバウムガルテンの出身だ。彼らは皆、死ぬことを既に受け入れている者特有の朗らかな笑みを浮かべていた。
「ここはオラたちに任せてくれや。オラたちでダメなら、お嬢ちゃんに頼めばいい」
「ああ、達者でな……」
「おう!」
彼らでは成功の可能性は低い。だがアヒムには、彼らの決意を踏みにじることはできなかった。
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